研究課題
金属酵素のように大規模かつ活性部位の軌道が擬縮退した複雑な電子状態を有する分子(以下、開殻分子とする)が触媒する化学反応を理論計算を用いて解明することを目指している。このような問題に対しては、反応中心を量子化学(QM)計算、周囲の場を分子力学(MM)計算で扱うQM/MM法と分子動力学(MD)法を組み合わせたQM/MM MD計算が必要となる。本研究では計算のボトルネックとなるQM計算のコストを削減することを目的とし、半経験的分子軌道法(PM6)の改良を行ってきた(以下、rPM6法とする)。昨年度までの成果として、基本的な有機分子、マンガンのパラメータの修正を行うことで、主要な金属酵素活性部位やその模倣錯体への適用を可能とした。最終年度はrPM6法に対して様々な精度評価を行うことで有用性を示した。まず、単核および多核金属錯体による酸化反応の遷移状態探索に適用した結果、テストセットとして用いた58個のうち48個 (83 %)の遷移状態構造を正しく求めることができ、既存のPM6の結果 (36 %) を大きく改善した。加えて、物理化学パラメータの定量的な計算が可能であるかどうかも検証した。その結果、スピン間の磁気的相互作用、結合解離エネルギー、反応障壁、反応エネルギーなどのパラメータは既存の半経験的分子軌道法の結果を大きく改善した。P450による気質のC-H結合活性化反応を例にとると、反応障壁自体はDFTや実験値を過大評価する傾向にあるが、結合解離エネルギーと反応障壁には非常によい相関が見られた。したがって、代謝部位予測をはじめとする様々な反応部位予測の簡便なスクリーニング法として有用であることが示された。
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