研究課題/領域番号 |
16K17857
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
矢ヶ崎 琢磨 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特別契約職員(講師) (40442529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クラスレートハイドレート / 分子動力学シミュレーション / 結晶成長 / 核生成 |
研究実績の概要 |
石油産業では古くから、天然ガスのパイプラインの中でメタンハイドレートが生じて、パイプを詰まらせてしまうという問題が知られている。その対策の一つとして使われているのが、速度論的阻害剤である。速度論的阻害剤は水溶性ポリマーであり、ハイドレート表面に吸着して結晶成長を妨げる効果がある。また、液体の分子構造を乱して核生成を妨げる効果があるとも言われている。本研究は、これらの機構を分子動力学シミュレーションで明らかにすることを目的とする。 研究当初はメタンをゲストとしたハイドレートのシミュレーションを行う予定であった。しかしながら、後述するように、これが実際には非常に難しいということが明らかになった。そこで、メタンの代わりに水溶性のethylene oxide(EO)をゲストとした計算を行うことにした。EOは実験研究でもしばしばメタンの代用品として用いられている。我々はEOハイドレートの結晶成長が、代表的な水溶性ゲストであるtetrahydrofuran (THF)のハイドレートよりも数十倍も速いことを見出した。これはEOがTHFよりも小さく、ハイドレートの小ケージに入れることが原因である。また、EOは水溶性であるため、水中で成長中のハイドレートの界面に到達しやすく、そのためにメタンハイドレートよりも結晶成長が速い。一方で、その生成成長機構は、核生成時に14面体ケージができやすいということを除けば、メタンハイドレートのそれとよく似ている。これらの結果は、EOをメタンの代用品としてハイドレートのシミュレーション研究に使うことが非常に有用であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初はメタンをゲストとしたハイドレートのシミュレーションを行う予定であった。しかしながら、これが実際には非常に難しいということが明らかになった。ハイドレートが成長するためには、十分な量のゲスト分子が気相から水中に入り込み、結晶の界面に到達する必要がある。しかしながら、メタンの低い溶解度のために、シミュレーションではこれがなかなか起きてくれない。また、速度論的阻害剤が両親媒性ということも問題を困難にする。本来ならハイドレート界面に吸着すべき阻害剤が、システムサイズに制限があるシミュレーションでは、気-液界面に吸着してしまうのである。 これらの問題を解決するために、メタンの代わりに水溶性のEthylene oxide(EO)をゲストとした計算を行うことにした。EOは実験研究でもしばしばメタンの代用品として用いられている。速度論的阻害剤の効果を調べるためには、参照系として、まずそれが存在しない条件でのハイドレートの生成・成長過程の詳細が分かっていなければならない。そこで初年度は、速度論的阻害剤のない条件でEOハイドレートの生成、成長のシミュレーションを行い、他のハイドレートとの類似性について解析した。その後、速度論的阻害剤の種類、重合度、相互作用ポテンシャルなど、実際に速度論的阻害剤を含んだ系の計算条件のための試行錯誤を行い、近頃、本計算を開始した。 当初の予定と異なり、EOハイドレートを用いることになったが、その成長過程がメタンハイドレートのそれよりも非常に速く、シミュレーションを効率よく行えるということが明らかとなったため、トータルでは予定通りに進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
EOハイドレートの結晶成長が非常に速いことが明らかとなった。現在、EOハイドレートと共存する水溶液中に速度論的阻害剤の重合体を入れたシミュレーションを進めている。途中段階であるが、実験から推測されているように、阻害剤が界面に吸着して、その周りの結晶成長が阻害されていることが観察されている。今後、それぞれの分子のダイナミクスや成長中の結晶構造の解析を行い、吸着と阻害の動的機構を明らかにしていく。 同時に、阻害剤の単量体のハイドレート表面への吸着自由エネルギーの計算を進めていく。結晶の面依存性や、阻害剤の種類による違いなどを、熱力学的な側面から解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来ならば平成28年度当初から多量の計算を行う予定であったが、前述のとおり、計算計画の変更とそれに伴う条件の詳細の再検討があったため、購入予定であった計算機が必要とならなかった。計算機は時間とともに単価当たりの性能が上がるため、本当にそれが必要となる段階まで購入を見合わせることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度末より本計算が始まったため、そのデータ解析のための計算機を平成29年度中に購入する予定である。
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