研究課題
本課題は、クラスレートハイドレートの生成を抑制する速度論的阻害剤の機能解明を目的としている。28年度の研究で、溶解度の低いメタンを用いるより、水と混和するエチレンオキシドをゲストとしたほうが効率よくシミュレーションを行えるということが明らかになった。最終年度は、エチレンオキシドハイドレートと水溶液の共存系に速度論的阻害剤が存在するという状態のシミュレーションを行った。阻害剤が吸着した状態で結晶が成長することにより結晶表面が曲がる。これにより、Gibbs-Thomson効果のために結晶が不安定化し、融点を下げることで、成長が阻害されているということが明らかとなった。ハイドレートの速度論的阻害剤は、氷の成長を阻害する不凍タンパク質とその機能がよく似ている。これらの間の相違性について解析を行った。不凍タンパク質は何種類もあるが、それらのほとんどは氷のある特定の面にしか吸着しない。一方、本研究により、ハイドレートの速度論的阻害剤は結晶の様々な面に吸着できるということが明らかになった。氷の場合、表面にある間隔の溝構造が存在する。不凍タンパク質の多くには、その溝の間隔と一致するようにThr残基の並んだ面がある。このThrのCH3が溝にはまりこむことで氷に吸着する。これに対し、ハイドレートの表面には多数の大きな籠型の隙間が存在する。それぞれの籠と疎水基の引力は氷の場合よりも強く、そのため、阻害剤の原子配置には周期性がないにも関わらず結晶表面に吸着することができるのである。しかしながらこの結果は、もし阻害剤の構造が周期性を持っていれば、さらに強く結晶と吸着できる可能性を示している。このような物質が開発・発見されれば、それは従来よりも高機能の阻害剤となるだろう。このように、ハイドレートと氷には密接な関係がある。これに関連して、新奇な氷構造に関する研究も行った。
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