研究課題
タンパク質内の反応は「活性中心」と呼ばれるタンパク質内の特異な反応空間において実現され、その活性中心の構造情報を反応過程において取得することがタンパク質の反応機構を解明するうえで極めて重要となる。本研究では、溶液中の分子の3次元構造を取得可能なラマン光学活性分光法をタンパク質の活性中心に応用した。これまで観測が困難であった活性中心の3次元構造を反応過程において計測し、反応機構を明らかにすることが主眼である。初年度は、光受容性の微生物が持つカロテノイド結合型タンパク質およびレチナール結合型タンパク質を対象として、これらのタンパク質の始状態および反応中間体のラマン光学活性測定を行った。対象としたカロテノイド結合型タンパク質は、シアノバクテリアの光防護機構を担うオレンジカロテノイドタンパク質(OCP)である。OCPは光照射後に約10秒程度の寿命を持つ活性状態を生成し、この過渡的状態が光防護能を発現する。初年度において、OCPの活性状態のラマン光学活性測定に成功し、結晶構造と量子化学計算を利用した構造解析によって、X線結晶構造解析から提案されたOCPの活性化機構が溶液中においても拡張できることを実証した。この結果は、過渡的状態のラマン光学活性を測定した初の成功例となった。また微生物のレチナール結合型タンパク質を対象とした研究では、バクテリアの光駆動プロトンポンプであるバクテリオロドプシン(BR)を用いた。このタンパク質の光反応中間体はマイクロ秒あるいはミリ秒程度の短い寿命を持つため、中間体を低温下で補足する必要がある。低温下での安定かつ高効率なラマン光学活性測定に適した散乱円偏光方式の実験装置を新たに作成し、BRを用いたテスト測定を行った。
2: おおむね順調に進展している
主眼であったタンパク質の反応中間体のラマン光学活性測定を、微生物のカロテノイド結合型タンパク質に対して実現し、反応機構に直結した研究成果を得た。現在、寿命が数秒程度の反応中間体についてはラマン光学活性測定が可能である。しかし、当初予定とした短寿命な中間体に対する低温測定については十分な信号強度でラマン光学活性スペクトルを得るに至っておらず、装置改良とテスト測定を行っている。
低温下におけるタンパク質反応中間体のラマン光学活性測定が課題である。試料を極低温にすることで、常温では寿命がミリ秒以下の中間体の測定も可能になり、測定対象となる反応中間体を大幅に広げることができる。しかし、低温測定のためにクライオスタットを用いた場合、試料周りの集光が悪くなるために十分な信号強度を得ることができていない。検出系の光の損失をいかに抑えるかが低温測定の実現には重要となるため、低温測定に特化したレンズ分光器(あるいはプリズム分光器)の導入を検討している。また、初年度にカロテノイド結合型タンパク質がラマン光学活性測定の恰好の対象となることを見出したため、他種のカロテノイド結合型タンパク質についても研究を推進する。
本年度予定した消耗品を購入した結果、約5万円の余りを生じた。
次年度に測定を予定する試料に関連した試薬等の消耗品の購入に充てる
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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