研究課題/領域番号 |
16K17866
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中薗 和子 東京工業大学, 物質理工学院, 特任助教 (30467021)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ロタキサン / 触媒 / 協同効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、ロタキサン骨格が機械的結合を介してコンポーネント同士が協同的に振舞うことに着目し,これを反応場とすることで酵素のような特性をもつ触媒構築を目指す。まずは触媒部位とロタキサン骨格を複合化したロタキサン触媒を開発し、その反応特性を明らかにし、実験とシミュレーションの双方から動的な反応場の構造効果について明らかにすることを目指す。 初年度は、アシル化触媒としてピリジン型ロタキサン触媒を設計・合成し、その触媒特性の評価と反応中間体の構造について検討した。まず、軸成分上にピリジルメチル基を有するクラウンエーテル型ロタキサン触媒の簡便な合成法を確立した。クラウンエーテルには光学活性なビナフチル骨格を導入し、不斉場として機能するように設計した。次に、これをメソ体のヒドロベンゾインの不斉モノベンゾイル化の触媒として用いたところ、ロタキサン触媒を用いた場合、軸と輪をそれぞれ触媒として加えた場合よりも反応を効果的に触媒することがわかった。この理由について明らかにすべく、アシル化剤の塩化ベンゾイルがロタキサン触媒のピリジル基に付加した反応中間体のアシルピリジニウム塩を単離し,NMRによる構造評価を行った。その結果、反応中間体において反応中心であるアシルピリジニウム塩部位とクラウンエーテルが近接している構造が示唆された。これは機械的結合の運動性を利用して、反応中間体のアシルピリジニウム塩のカチオン電荷にクラウンエーテルが配位し、この効果によりアシルピリジニウム塩の生成が促進されて、触媒的に反応が進行したと考えられる。当初の狙いどおり、機械結合で動的に結びつけられたコンポーネント同士が協同的に振舞うことで触媒活性を制御できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、クラウンエーテルを輪成分にもつロタキサン型触媒の設計と合成を中心に研究を進め、ビナフチル基を導入したクラウンエーテルとピリジン部位を触媒とする、ロタキサン型触媒を用いてメソ体のヒドロベンゾインの不斉モノベンゾイル化を検討した。また、ロタキサン型触媒におけるコンポーネント間の協同効果について明らかにすることを目的として、反応中間体であるアシルピリジニウム塩の単離を行った。この時、コンポーネントの部分構造の異なるいくつかのロタキサン型触媒を合成し、これらをアシルピリジニウム塩にした場合に、協同効果に大きく差異が生じるという知見が得られた。一方で、触媒部位の導入方法は合成的に簡便で汎用性の高い方法を確立できたが、触媒の構造によっては立体的な問題により、適切に協同効果を発現できず、極端に触媒活性や不斉反応の場合は不斉選択性が低下することがわかり、触媒中心の構造によっては新たな触媒部位の導入方法やロタキサン骨格の設計について検討する必要があることもわかった。さらに反応条件の最適化には至っていないが、N-メチルイミダゾール型ロタキサン触媒も、 Steglich型のエステル転位反応において触媒活性を示すことを見出しており、ロタキサン触媒の候補として継続して精査する。 また、本研究ではロタキサンの分子不斉を活用した不斉触媒の設計も計画しており、初年度は分子不斉ロタキサンの合成と効率的な光学分割を指向した速度論分割についても検討を進めた。しかし、光学分割はHPLCに頼らざるを得ない状況であったことから、リサイクル可能な触媒を目指し、並行して高分子担持触媒の合成も行った。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の触媒設計の問題点から、触媒の導入方法を含めたロタキサン触媒の新設計の検討を進める。効果的な協同効果を引き出す上でのいくつかの助けとなる知見を初年度のロタキサン触媒の構造効果の検討から得ており、これらの知見をもとに設計を進める。また、初年度は有機分子触媒としてピリジル基やN-メチルイミダゾール基を導入したが、遷移金属錯体の配位子としてロタキサン型反応場の構築についても検討を進める。含遷移金属型ロタキサン型触媒はいくつか報告例があるが、コンポーネント間の動的特性を組み込んだ触媒設計は報告例がない。あくまでも動的な反応場となるよう、遷移金属含有ロタキサン触媒の合成を進める。 また、分子不斉ロタキサン触媒の開発においては、まずは効率的な光学分割法の確立と絶対立体配置の決定を進め、初年度合成した高分子担持触媒の触媒活性評価を進める。
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