研究実績の概要 |
お椀型湾曲π共役骨格の構築を目的として、そのπ共役ユニットとして用いるアントラセンの効率的修飾法を開拓し、目的骨格の前駆体である1-ハロアントラセン類縁体の大量合成を可能にした。またこれに対しブチルリチウムによるハロゲンリチウム交換を施しアントラセニルリチウム種を発生させ、これを求核剤とする種々の求電子剤との反応を検討した。これにより、炭素1原子を介したアントラセンの集積化ができた それに並行し、ユニットとして用いるアントラセンの反応性を種々検討した。9,10-ジフェニルアントラセン及びその類縁体に対する2,3-ジシクロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン及びトリフルオロメタンスルホン酸を用いるScholl反応を試みたところ、効率的かつ位置選択的に縮環が進行し、ルビセン類縁体が高い収率で得られることを見出した。本反応は既存のルビセン合成法に比べて温和な条件で進行する点や収率が高い点、原料が容易に入手可能な点で優れている。 9,10-ジメシチルアントラセンに対するベンザインのDiels-Alder反応を試みると、選択的にアントラセンの1,4-位で反応が進行し、対応するベンザイン付加体が高収率で得られた。さらに、この反応により分子内に生じるオレフィン部位の反応性を検討し、一般的な内部オレフィンと同様の反応性を示すことを見出した。 さらにアントラセンの多量化及び得られる多量体の物性調査も行った。9,10-ジエチニルアントラセンに対するヨウ素を酸化剤とするPd/Cu共触媒を用いる酸化的ホモカップリングによりアントラセン-ジアセチレンオリゴマーを合成し、一連の長さの決まったオリゴマーをクロマトグラフィーによりそれぞれ単離した。種々の分光測定及びX線結晶構造解析により構造及び物性を明らかにし、オリゴマーのユニットの数が増加するとともにHOMO-LUMOギャップの低下する様子を確認した。
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