前年度までに開発したPd触媒を用いた高効率環化反応を用いて種々の新規環状化合物の合成を行なった。合成した化合物はイオウでつながったオリゴチオフェンであり、酸化してカチオンラジカル種を与えやすい。本年度は合成と構造、そして酸化還元特性についての総合論文をまとめた。また、コイン型電池に環状化合物を組み込み固体中の酸化還元特性を調べた。高電位で可逆的な酸化還元が固体中で観測できた。 一方、新しく、セレン架橋型の環状化合物の合成を行なった。今回、新しくトリブチルスズセレニドとPd触媒を用いることで、効率的にAr-Se-Ar結合が生成し、効果的なSe導入反応の開発に成功した。(現在、論文執筆中)これを元に、環状化合物へのアプローチを行なったところ、Se架橋の環状化合物(セレナカリックスアレーン類)が効率よく生成することを見出した。化合物の同定は各種NMRスペクトルやX線構造解析によって行なった。結晶構造解析の結果、セレン原子の長いvan der Waals半径に由来して、固体中の強い相互作用が明らかとなった。また、C60などを効率的に包接することがわかり、今後、光物性などの固体物性に関して調査する予定で有る。 一方、環状シクラセン類似化合物の前駆体として、チエノチオフェンを母骨格にしたベルト状環状化合物の合成に新しく成功した。可溶化したチエノチオフェンを用いて合成を行い、シクロパラ[8]チエノチオフェンへ導いた。化合物は1H NMR及び13C-NMRで同定した。
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