研究実績の概要 |
アントラセン骨格を組み込んだ大環状分子として,最終年度は2,7-アントリレンユニットを組み込んだ大環状分子の合成を中心に進めた.昨年度,パラフェニレンジアミンと2,7-ジブロモアントラセンとのカップリングにより大環状分子を合成したので,今年度はメタあるいはオルトフェニレンジアミンとのカップリングを行い,目的化合物の合成に成功した.サイクリックボルタンメトリーにて酸化還元電位を調べたところ,パラ体と異なり非可逆なプロファイルがそれぞれ観測された.これは窒素原子と連結している芳香族との相互作用により複雑に酸化されることが示唆された.この結果から大環状分子の酸化種の安定性が置換位置によって異なることを見出した. また2,7-アントリレンユニット同士を窒素で直接連結した大環状分子の合成も試みた.当初2,7-ジブロモアントラセンとp-アニシジンとのカップリングを行ったが,生成物が非常に酸化されやすく取扱いが非常に困難であった.そこで2,7-ジブロモアントラセンの9,10位にフェニル基などを導入することで安定性の向上を図った.同様にカップリングを行ったところ,立体障害により環化反応が進まず,ポリマー化が優先的に起こった.このため,嵩高くない置換基としてアルキル鎖を導入することで環化反応を阻害しないように工夫して,2,7-アントリレンユニットを組み込んだ含窒素大環状分子の合成を進めている. 本研究期間において,アントリレンユニットの様々な置換位置を窒素で連結した大環状分子の合成に成功し,それら酸化種の電子的特性を電子スペクトルとDFT計算により明らかにした.特に9,10-アントリレンユニットを組み込んだ含窒素大環状分子が構造的な要因により特異な電子物性を持つことを見出した.本研究により,アントラセンの構造的特徴を活かした新たな分子デザインの創出とその設計指針を確立することができた.
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