研究実績の概要 |
本年度は、2,9-dimethyl-1,10-phenanthroline (dmpと略)型配位子と、リン配位子を2つ有する四面体型Cu(I)錯体の合成を主に行なった。特に、4,7-dichloro-2,9-dimethyl-1,10-phenanthrolineを原料とし、鈴木・宮浦カップリングにより、4,7-位に種々の電子的特性を有した置換フェニル基(R-Phと略)を導入した新たな配位子を合成した。これをdmp配位子の代わりに用いてCu(I)錯体を合成することにより、Cu(I)錯体の可視光吸収特性の増加を試みた。 この結果、R-Phとして電子求引性の4-trifluoromethyl-phenyl (CF3-Ph)基を用いた場合に、得られたCu(I)錯体の光吸収波長の長波長シフトが観測され、MLCT (metal-to-ligand charge transfer: Cu -> dmp)吸収極大波長は、約10 nmのレッドシフトを示した。さらに、R-Phとしてビフェニル (BPh)基を用いると、光吸収効率の増大、すなわちMLCT吸収帯のモル吸光係数が約2倍に増加した。いずれのCu(I)錯体も、室温アセトニトリル中において強い発光を示し、マイクロ秒程度の励起寿命を有することが確認された。 得られたこれらのCu(I)錯体の酸化還元特性をサイクリックボルタンメトリーにより調べた結果、一電子目の還元に相当する酸化還元波は良い可逆性を示した。さらにこの電位は、電子求引性置換基導入に由来するポジティブシフトが見られたものの、一般的な光増感剤であるRu(II)トリス(2,2'-ビピリジン)錯体に比べ、ネガティブ側に存在していた。すなわち、すなわち、これらCu(I)錯体の一電子還元種は安定で、かつ十分な還元力を有していることがわかった。
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