研究課題/領域番号 |
16K17878
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森本 祐麻 大阪大学, 工学研究科, 助教 (20719025)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化反応 / 二核錯体 / 芳香族 / 磁気的性質 / 反応活性種 / 結晶構造 / 速度論 / 反応機構 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、特殊な官能基を持たない芳香族炭化水素へ、安価かつ環境負荷の小さい過酸化水素などの酸化剤を用いて、一段階で水酸基を導入することのできる、環境調和型の分子触媒系を開発することである。これまで特に、ピリジンとアミンから構成される多座配位子を有するニッケル錯体分子を触媒として用いた系について重点的に研究を進めてきた。平成28年度の研究では、三座のピリジルアルキルアミンを支持配位子とするニッケル錯体を十数種合成してそれらの活性について評価を行った。合成したニッケル錯体の大半は触媒活性を有することが明らかになったが、その検討の中で、反応の想定反応活性種である二核ニッケル三価-ビスミューオキシド錯体を著しく安定化する配位子系を見出した。この配位子系を利用し、二核ニッケル三価-ビスミューオキシド錯体の単結晶X線構造解析を行うことに成功した。また、この錯体の電子スピン共鳴スペクトルや、磁化率の温度依存性をSQUIDにより取得することによって、この錯体は2つのニッケル中心が、強磁性的に相互作用している非常に稀な錯体系であることを見出した。平成29年度の研究においては、この錯体の電子状態について計算化学的な検討と考察をすすめ、この強磁性相互作用の起源について明らかにした。成果はAngew. Chem. 誌への掲載が決定した。この錯体の反応性についても検討を進めたところ、比較的電子豊富な芳香族化合物と、摂氏ー40度程度の低温でも十分に高い反応性を有していることを見出した。この反応について速度論的な検討を進め、反応機構についての論文を準備中である。また、ニッケル錯体の支持配位子として、ピリジンをキノリンによって置き換えたものについても、二核二核ニッケル三価錯体の結晶が得られることが分かった。予備的な実験の結果、この配位子系でもニッケル三価中心間で強磁性的な相互作用をしている事が分かっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究において見出されてきた、高原子価二核金属ビスミューオキシド錯体は、すべて2つの金属原子が強磁性的に相互作用しているものであった。近年の理論化学者、生物無機化学領域の研究者を中心とした研究で、活性種の磁気的性質が反応に影響を与えうる可能性が示唆されており、本研究は複核構造を有する金属の関与する反応について、貴重な知見を与えうるものである。本研究で発見された錯体は、十分なキャラクタリゼーションが可能であっただけでなく、低温条件下においても、種々の基質と反応することが分かり、現在、それらの反応を種々の分光法を用いて直接的に追跡しているところである。単核の活性種と比較して、二つ以上の金属中心を有する化学種は、電子状態と反応性についての情報を同時に取得することができるものはあまり多くない。本系は、それら両方の情報を提供できる稀有な例であり、電子状態と反応性の相関についての理解を深めるための情報を与えうる系であることが明らかとなった。当初の研究目的である触媒反応の効率化から、想定活性種の単離とキャラクタリゼーション、その反応性の検討を行う研究へと大きく方針が転換しているものの、反応系についての理解は、予想を超えて大いに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
錯体の電子状態についての理解は、平成29年度の研究で十分に深まったと考えられる。またこの錯体による有機分子の酸化反応は、分光学的に直接追跡できうることが明らかになった。平成30年度は、この錯体とさらに多くの基質との反応についての系統的検討を進める予定である。得られた情報は、計算化学を専門とする研究者と共同で解釈をすすめ、2つの高原子価ニッケル中心が、反応においてどのように協奏的に作用しているのかを明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が大きく進展したため、国際学会への参加を見送くり、実験、および論文執筆に専した。そのため、旅費の執行額が小さくなった。次年度に繰越した予算は、追加の実験に必要な試薬、消耗品の購入に当てる予定である。
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