研究課題/領域番号 |
16K17882
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
小玉 晋太朗 中央大学, 理工学部, 助教 (30612189)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金属錯体化学 / オキシムエステル / イミン / エナミン / 配向基 |
研究実績の概要 |
オキシムエステルのイミン構造を N-オキシエナミン構造へと異性化できれば、速やかに転位反応が進行して α-酸素化イミンが生成することが知られている。ところが、オキシムエステルのイミン―エナミン異性化を効率的に進行させる手法は未だ確立されておらず、上述した分子変換を有機合成に活用する例は限定されている。本研究は、金属との錯形成を利用して上述の異性化を促進させることにより、オキシムエステルを α-酸素化イミンへと穏和かつ直接的に変換する新手法を開発することを目的としている。 そこで本年度では、オキシムエステルと金属錯体との量論反応を検討した。その結果、2-アセチルピリジンオキシム酢酸エステル (1) と二核イリジウム錯体 [Cp*IrCl2]2 とを室温で反応させることにより、1 ではなく α-アセトキシイミンがイリジウムに配位した錯体が 82% の単離収率で得られた。さらに、1 と同様の分子骨格を有する炭酸エステルおよびスルホン酸エステルを用いた反応でも、対応する α-酸素化イミン錯体がそれぞれ選択的に生成した。一方、1 のピリジン環窒素の隣接位にブロモ基を導入したオキシム酢酸エステルを基質とした場合、対応する α-アセトキシイミンの生成は観測されなかった。また、1 と類似構造をもつ 2-アセチルピリジンオキシムメチルエーテル (2) を配位子とするイリジウム錯体 3 の重水素化実験により、イリジウムに 2 のイミノ基窒素が配位することで α-炭素上の水素の酸性度が高まり、イミン―エナミン異性化が促進されるという結果を得た。以上より、本反応ではイリジウムに対して適度な配位力を有するピリジル基が配向基として機能し、オキシムエステルのイミノ基窒素とイリジウムとの錯形成が鍵となってオキシムエステルから α-酸素化イミンへの転位反応が速やかに進行したものと推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、金属との錯形成を利用してオキシムエステルのイミン―エナミン異性化を促進させ、オキシムエステルを α-酸素化イミンへ穏和かつ直接的に変換する新手法を開発することである。さらに、金属との錯形成を鍵とする触媒的 α-酸素化イミン合成へと本手法を展開して行く予定としている。 本年度では、2-アセチルピリジンオキシムから誘導される酢酸エステル 1 および各種オキシムエステルと、二核イリジウム錯体 [Cp*IrCl2]2 とを反応させることにより、それぞれ対応する α-酸素化イミン錯体を得ることに成功した。イリジウム錯体上でオキシムエステルから α-酸素化イミンへの分子変換を観測した例はこれまでに知られておらず、興味深い結果と考える。なお、本反応では α-酸素化イミン錯体への転位反応が室温で速やかに進行するため、オキシムエステルがイリジウムに配位した中間体を単離することは困難であった。そのため、イリジウムとの錯形成によりオキシムエステルのイミン―エナミン異性化が促進されているかどうかについて、錯体レベルで確認するには至っていない。しかしながら、本転位反応には適度な配位力を有するピリジル基が必要であることに加えて、オキシムエーテル 2 が配位したイリジウム錯体 3 のイミン―エナミン異性化が容易に起こるということについては別途実験にて確認することができた。したがって、オキシムエステルについても、イリジウムとの錯形成により N-オキシエナミンへの異性化が促進され、その結果、α-酸素化イミン錯体が温和な条件下で生成したものと考えられる。 以上、オキシムエステルから α-酸素化イミンへの新規分子変換法を達成するための重要な知見を錯体化学的アプローチにより得ることに成功し、本年度における研究の進捗はおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成 28 年度の研究で、オキシムエステルから α-酸素化イミンへの分子変換にイリジウムとの錯形成が有効であることを明らかにしたが、平成 29 年度では、その他の金属(イリジウムと同族であるコバルトやロジウム、またはルイス酸性を示す亜鉛、ビスマス、スカンジウムなど)とオキシムエステルとの反応についても検討し、イリジウムとの反応性の違いを明らかにしたい。また、イリジウムを用いた反応では困難であった、オキシムエステルが配位した金属錯体の単離に成功した場合には、本金属錯体をモデル化合物とすることにより、金属との錯形成がオキシムエステルのイミン―エナミン異性化に与える影響を明らかにする実験を実施する。さらに、イリジウム錯体上でのオキシムエステルから α-酸素化イミンへの転位反応の知見を基に、触媒的 α-酸素化イミン合成を目指した研究にも平成 29 年度から着手する。まずは、イリジウムを用いた触媒反応における鍵段階である α-酸素化イミン錯体の脱メタル化に関する知見を得ることを目的として、平成 28 年度の研究で得られた α-酸素化イミン錯体の配位子置換反応を検討する。同時に、ピリジル基よりも脱メタル化が容易となる配向基を探索し、触媒的 α-酸素化イミン合成を達成する反応条件を明らかにしたい。イリジウム以外の金属を用いた同様の検討についても、平成 29 年度および平成 30 年度に実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、オキシムエステルから α-酸素化イミンへの転位反応に有効な金属を探索するために、さまざまな金属錯体の合成を予定していたが、比較的早い段階から、二核イリジウム錯体 [Cp*IrCl2]2 が本転位反応に有効であることが明らかとなり、本年度は [Cp*IrCl2]2 を用いた各種オキシムエステルの転位反応に注力した。その結果、金属錯体を合成する上で必要となる比較的高価な試薬や実験器具の購入にかかる費用を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
イリジウム以外の金属の反応性および金属触媒反応の達成に向けた研究を平成 29 年度から着手するにあたり、これを遂行するための消耗品(主に合成試薬やガラス器具)の購入費が比較的高額となるため、繰越分を平成 29 年度の物品費に合算し、使用する予定である。
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