研究実績の概要 |
現在,有機エレクトロニクスの研究は世界中で活発に進められている。しかし,一般的に分子は閉殻な電子構造をとること,不純物のドーピングが困難であることから,効果的に有機物へ電荷注入を行う手法の確立が求められている。本研究では,電子供与性分子(ドナー)/電子受容性分子(アクセプター)結晶の接触界面で電荷の移動が生じ,金属的な挙動が観測されるという先行研究を基に,金属的挙動の生じる材料の探索を行った。 (1)単成分結晶の接触界面 アクセプター分子を2,5-difluoro-7,7,8,8,-tetracyanoquinodimethane (F2TCNQ)に固定し,様々なイオン化ポテンシャル(IP)を有する8種類のドナー結晶を接触させてその界面の電荷移動量と電気伝導度を系統的に調査した。この結果,すべての組み合わせで界面の電荷移動に起因した高伝導化が確認された。特にF2TCNQの電気陰性度との差が1.1 eVにも及ぶピセン結晶の界面において高伝導化と共に温度の低下とともに抵抗が減少するバンド伝導的な挙動も確認できたことは,計画当初の予想よりも良い結果であった。この結果から接触による有機結晶表面への電荷注入法は,分子のドナー性やアクセプター性に強く制限されることなく,幅広い物質に応用可能であることが期待される。 (2)イオン性基底状態の電荷移動錯体とドナーの接触界面 既にアニオン‐カチオン間で完全に電荷が移動しMott絶縁体になった物質にドナー分子ルブレンの結晶を接触させ電荷の注入を試みた。その結果,その界面も高伝導化を示し,金属的な挙動を観察することができた。これはドナーであるルブレンが,Mott絶縁体結晶表面に電子注入を行ったことに起因したと考えている。またMott絶縁体結晶を用いた電界効果型トランジスタを作製することで物理的な電荷注入と化学的な電荷注入と比較も行っている。
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