研究課題/領域番号 |
16K17888
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
小玉 康一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (90509712)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光学分割 / 有機結晶 / キラリティー / 不斉認識 / 水素結合 / 溶媒効果 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、光学活性なアミノアルコール(ADPE)を用いたキラリティースイッチング光学分割法の適用範囲の調査のため、マンデル酸(MA)の芳香環上にハロゲン基を導入した類縁体をターゲットとし、置換基の位置や種類などの分子構造が及ぼす影響を調査した。 まず、MAの芳香環のパラ位にそれぞれフルオロ基、クロロ基、ブロモ基を有する三種の類縁体(p-F, p-Cl, p-Br体)について溶媒を検討した。いずれも0.6を上回る高い効率で光学分割することができたが、得られたエナンチオマーは(S)体であり、キラリティースイッチング現象はほとんど見られなかった。p-Br体のみ、水を溶媒とした場合に低い効率ながら(R)体が得られた。 そこで、置換基の位置の影響を調べるために、クロロ基をオルト位またはメタ位に有する類縁体(o-Cl, m-Cl体)の検討を行った。その結果、o-Cl体のジアステレオマー塩は結晶を与えず、光学分割することができなかった。一方、m-Cl体は非アルコール系溶媒から結晶化させると(S)体が優先的に得られたのに対し、ブタノールなどのアルコール系溶媒を用いると、溶媒が包接された(R)体の塩が得られ、効率的なキラリティースイッチング法を適用できることがわかった。 得られた(S)体のジアステレオマー塩の結晶構造解析を行った結果、いずれもMAの場合とは異なるシート状の水素結合ネットワークが形成されており、溶媒を包接することなく、安定化されていた。一方、m-Cl体の(R)体の塩はMAと同じく溶媒を含んだカラム状の水素結合ネットワークを形成しており、溶媒の包接が安定化に寄与していた。 以上のことから、マンデル酸の芳香環に置換基を導入した場合、分子形状のわずかな違いによってキラリティースイッチング法の適用可否が決定され、結晶構造からその要因を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りに置換マンデル酸類に対する検討を行うことができた。残念ながら、期待していたよりも適用範囲が狭く、パラ位に置換基を有するマンデル酸誘導体に対してはキラリティースイッチング法が適用できなかった。今後はこれらのカルボン酸に適した光学活性アミノアルコールの探索が必要であるが、結晶構造解析の結果から、分子の形状が重要であるという知見が得られており、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのキラリティースイッチング法では、光学活性アミノアルコールであるADPEを分割剤として用いているため、光学分割可能な化合物は塩形成が可能なカルボン酸などの酸性化合物に限られていた。そこで平成30年度は、アミンなどの塩基性化合物に対するキラリティースイッチング法に有効な酸性光学分割剤の開発を目指し、ADPEの特徴を取り入れた光学活性ホスフィン酸の合成と光学分割に取り組み、キラリティースイッチング法の拡張を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はガラス器具の譲渡を受けたことなどにより、ガラス器具の補充に必要な支出が予定より少なくなったため、次年度使用額が生じた。しかし、合成用試薬などの消耗品が不足しつつあり、平成30年度は新たな化合物の合成にも取り組むため、試薬類をはじめとする物品費への支出が増えることを見込んでいる。
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