研究課題/領域番号 |
16K17897
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小田木 陽 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30772157)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 有機触媒 / グアニジン / ウレア / 光学分割 / テトラロン / リシリリドB |
研究実績の概要 |
【研究目的】 光学活性なテトラロン構造は、有用な生理活性物質に広く見出される構造であり、当該構造の光学活性体を合成する手法の開発は、重要な研究課題である。我々は、グアニジン-ウレア触媒を用いた新規不斉反応の開発研究を行ってきた。その中で近年、グアニジン-ウレア触媒存在下、酸化剤としてクメンハイドロペルオキシドを用いることで、ほぼ完璧な立体選択性でテトラロン型β-ケトエステルのα位に水酸基が導入できることを見出した。さらに、当該反応を酸化的速度論的光学分割に応用することで、これまで合成が困難だった光学活性なβ位またはγ位置換テトラロン誘導体の合成法の開発に成功している。本研究では、開発した酸化的速度論的光学分割を更に発展させるべく、本反応の基質適用範囲の拡大及び天然物合成への応用について検討を行った。 【研究結果】 (1)基質適用範囲の拡大:我々がすでに開発している酸化的速度論的光学分割は、テトラロン骨格のβ位またはγ位のどちらか一方にのみ置換基を有する基質にしか適用していなかったため、β,γ位二置換型テトラロンに対しても同様に速度論的光学分割が進行するか検討を行った。種々検討した結果、再度反応条件の最適化を行うことで、β,γ位二置換型テトラロンに対しても効率的に速度論的光学分割が進行することを見出した。更に、本反応を用いることで、カイニン酸誘導体の一種であるMFPAの母骨格の不斉合成に成功した。 (2)天然物合成への応用:開発した酸化的速度論的光学分割を基盤としたRishirilide Bの合成研究を行った。当該反応を基盤とすることで、市販のアルデヒドより17工程でRishirilide Bの不斉全合成を達成した。更に光学分割の特性を生かし、天然物の両エナンチオマーを合成することで、天然体である(+)-Rishirilide Bの絶対立体配置を明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)開発した酸化的速度論的光学分割の基質適用範囲の拡大を目指し、β,γ位二置換型テトラロンを用いて検討を行った。β,γ位二置換型テトラロン構造は、有用な生理活性を有する化合物に広く見られる構造であることから、光学活性な当該構造を合成可能な反応の開発は重要な研究課題であると考えられる。種々検討した結果、若干の反応条件の最適化を必要としたものの、効率的に光学分割反応が進行することを見出した。本知見により、グアニジン-ウレア触媒を用いた速度論的光学分割における基質適用範囲を明らかにすることができた。 (2)テトラロン誘導体の速度論的光学分割の有用性を示すことを目的に、Rishirilide Bの合成研究を行った。その結果、市販のアルデヒドより17工程で天然物の全合成を達成した。また、光学分割を用いることで、一つの光学活性な触媒から天然物の両エナンチオマーを合成し、天然体である(+)-Rishirilide Bの絶対立体配置を明らかとした。本結果により、光学活性なテトラロン誘導体の有用性と当該化合物群を得るための方法論の開発の重要性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、テトラロン型β-ケトエステルα位の不斉酸化反応を基盤とした酸化的速度論的光学分割を更に発展させることで、基質適用範囲の拡大及び当該反応の有用性を示すことができた。次年度では、グアニジン-ウレア触媒を用いることでテトラロン型β-ケトエステルのα位を高立体選択的に修飾可能な求電子剤の探索を行い、新規速度論的光学分割反応へと展開する。具体的には、グアニジン-ウレア触媒を用いたテトラロン型β-ケトエステルα位の不斉アミノ化及びクロロ化を中心に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(+)-Rishirilide Bの合成研究において、本研究の過程で、天然物の提唱されていた絶対立体配置が異なっていることが示唆された。これらの確認を、天然物のラセミ体及び両エナンチオマーの合成、およびそれらの分析を行った。その結果天然物の絶対立体配置を訂正することができたが、予期せぬ当該研究のために時間をかけたため、今年度予定していた触媒反応開発の一部を実施しなかった。そのため、消耗品費において差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、予定通りグアニジンーウレア触媒用いた新規不斉反応の開発に着手する予定であり、そのための試薬や実験器具、消耗品の購入を行う。
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