研究課題/領域番号 |
16K17898
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金 熙珍 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (80754514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 選択的合成 / 分子内転位反応 / フロー合成 / マイクロリアクター / フリース転位 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究目標は、①反応時間による転位反応の制御、②様々な原子団の転位反応の制御を活用した選択的合成への展開、③フリース転位反応の制御と系統化であった。本研究で制御を目的とする転位反応は、低温条件下でも非常に速く進行するため、ミリ秒以下の高速混合及び滞留時間制御、さらには超精密温度制御を可能とする新型のマイクロデバイスの開発が不可欠であった。 このような課題を実現するために、数値流体力学シミュレーション(CFD)に基づき、混合流路構造を最適化した。そして得られた構造に基づいて、ポリイミドファイル製のマイクロデバイスを開発した。ターゲットとなるアニオン性フリース転位反応では分子内転位により中間体が瞬時に別の中間体へ変化する。そこで新たに製作したデバイスを用いて、混合や反応時間をミリ秒以下に制御すると、短寿命中間体由来の生成物のみが得られた。また、反応時間を秒オーダーにすると、転位反応により得られる中間体由来の生成物のみが選択的に得られた。このように数百マイクロ秒といった通常の合成化学では用いられない時間を精密に制御することで、これまで実現困難な化学反応が達成できた。 また、通常の[1,3]-フリース転位のみでなく[1,4]-、[1,5]-、そして[1,6]-アニオン性転位反応においても同様な検討を行い、反応速度に関する体系的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究目標は、時間的な観点からフリース転位反応の進行様子を把握し、その制御を行うこと、また、極めて短い時間内に進行する転位反応に対し、その制御を達成し、選択的な合成法へ展開することであった。それを達成する鍵の一つは、これまで制御不可能であった短い時間領域を制御可能にすることであった。実際、分子レベルの反応時間と有機合成を行う上での合成作業においての反応時間には大きなギャップがある。そして、これまでの合成化学で1秒以下の時間を活用した合成法は稀であった。 この問題を打開するためには、ミリ秒以下の高速混合や滞留時間制御、さらには超精密温度制御を達成できる新たなデバイスが必要であり、デバイスの材質を検討する必要があった。このコンセプトを実現するために、韓国のDong-Pyo Kim教授らや、Do Jin Im教授との共同研究を行った。まず、混合シミュレーションによりデバイスのリアクター構造が最適化された新規デバイスを開発し0.3ミリ秒という、これまで前例のない時間領域を制御することに成功した。また、このデバイスを用いて新しい反応を開発することに成功した。この成果は当初の目標を超える研究の進展であり、予想を上回るものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、極めて速く進行する転位反応を効率的に制御し、それを活用した合成反応の開発に成功した。今後は以前の計画通り、まず、本手法を用いた様々な生理活性物質の選択的合成へ展開する。その際、反応系がフロー系であることを利用し、ライン切り替えにより様々な反応剤を組み合わせてシリアルなコンビナトリアル合成を行い、複雑な有機分子の効率的な迅速合成の検討も同時に行う。 また、アニオン性フリース転位反応だけでなく、転位反応を鍵素反応とするウィッティヒ転位反応、ブルック転位反応のような様々な転位反応に対し、同様な検討を行うことで、本手法の一般性を拡張する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初通常期で予定していた旅費交通費が閑散期に変更のため、使用額の差異が生じた
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は使用計画通りの執行を行う
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