研究課題/領域番号 |
16K17899
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊嶌 孝太郎 大阪大学, 工学研究科, 特任助教(常勤) (40609880)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | フッ素 / 水素化反応 / 置換反応 / ケイ素 |
研究実績の概要 |
本研究では、ケイ素化合物および触媒量のフッ化物塩を組み合わせることにより、ポリフルオロ化合物の脱フッ素水素化反応および脱フッ素置換反応が進行することを明らかにしてきた。 触媒量のフッ化物塩およびヒドロシランを用いたポリフルオロアレーンの脱フッ素水素化反応について反応機構に関する検討を行った。金属カリウムとジヒドロジフェニルシランおよびクラウンエーテルとの反応を行い、脱フッ素水素化反応の鍵中間体であると考えられるジヒドロシリケートを合成した。オクタフルオロトルエンとの量論反応を行ったところ、脱フッ素水素化反応が速やかに進行した。この結果は、脱フッ素水素化反応がヒドロシリケートを経由して進行していることを示すものであると考えている。また計算化学を駆使し、本反応がジヒドロシリケートまたはヒドロフルオロシリケートのいずれのシリケートも反応に関与しうることを明らかにした。さらに、典型的な芳香族求核置換反応にみられる二段階の反応(SNAr)ではなく、求核置換反応が協奏的に進行する協奏的芳香族求核置換反応(Concerted SNAr)を経て進行することが分かった。 酸フルオリドに対し、触媒量のTBAT存在下、エチニルシランやチエニルシラン誘導体を作用させたところ、フッ素が脱離してエチニル基またはチエニル基が導入されたケトンが得られることが分かった。これらの反応では、フッ化物イオンがシリル基に攻撃することで5配位シリケートとなり、エチニル基やチエニル基から酸フルオリドへの求核攻撃と続くフッ素原子の脱離によって生成物を与えていると考えられる。 以上にように、ポリフルオロアレーンの脱フッ素水素化反応における反応機構の解明と、酸フルオリドを出発物質に用いた炭素―炭素結合形成反応の開発を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリフルオロアレーンの脱フッ素水素化反応については、鍵中間体と考えられるヒドロシリケートとオクタフルオロトルエンとの量論反応や計算化学によるシミュレーションを行い、反応機構解明に関する情報を得ることができた。実施計画どおり遂行することができたと考えている。ただし、反応機構については当初に想定していた機構とは異なっていることが分かったため、より精密な計算方法を検討するなど、多くの時間を要した。 パーフルオロアルケンの脱フッ素置換反応については、オクタフルオロシクロペンテンとエチニルシランおよびチエニルシランとの反応から発光特性を有する化合物が得られることを見出していたが、置換基と発光波長や量子収率との関連を明らかにするには至らなかった。その一方で、類似の脱フッ素水素化反応が酸フルオリドを出発物質に用いた場合にも進行し、フェニルエチニルケトンやフェニルチエニルケトンが得られることを見出した。 以上のように、実施計画どおり研究を遂行することができた範囲と、さらなる検討が必要な範囲とがある。
|
今後の研究の推進方策 |
ポリフルオロアレーンの脱フッ素水素化反応において、1) 反応条件の精査、2) 基質一般性の確認、3) 量論反応、4) 計算化学による反応機構解明を行うことができたため、当初の計画を遂行することができた。 オクタフルオロシクロペンテンとエチニルシランおよびチエニルシランとの反応から得られる発光化合物について、置換基と発光波長や量子収率との関連性について明らかにしていく。各化合物を合成する際の反応条件の検討はおおむね完了しているため、残る研究課題はスケールアップ合成と精製、および発光特性の計測のみである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題のうち、ポリフルオロアレーンの脱フッ素水素化反応について反応機構解明に関する研究に多くの時間を費やした。そのため、当初の計画にあったオクタフルオロシクロペンテンとエチニルシランおよびチエニルシランとの反応から得られる発光性化合物の研究に十分な時間を割くことができなかった。次年度はこれらの化合物を合成する際の原料費や精製する際の消耗品の購入に充てる予定である。
|