含硫黄アルカロイドは、強力な生物活性を有することから、有機化学のみならず医学・薬学・生物学などの様々な分野でも重要な位置を占めている。しかしながら、その合成には多段階の合成過程が必要であり、最終生成物の全収率は低くなってしまう。そこで、位置選択的にアルケンをアミノチオ化できれば、含硫黄アルカロイドの迅速な合成法となると考え、検討をおこなうこととした。種々反応条件について検討を行った結果、銅触媒の存在下、アルケンに対して、アミノ化剤として N-フルオロベンゼンスルホンイミドを、硫黄化剤としてチオールを用いることで、望みのアミノチオ化反応が完全な位置選択性をもって進行し、目的の付加体を単一の生成物として収率よく得ることに成功した。また、求核剤としてチオールの代わりに塩化トリメチルシランを用いて、同様の条件下、反応をおこなったところ、期待した通り、対応するクロロアミノ化反応が進行することを見いだした。いずれの付加体の構造もX線結晶構造解析によって明らかにすることができた。また、基質適用範囲について検討をおこなった結果、いずれの付加反応においても高い基質一般性を有することがわかった。種々の官能基の置換したスチレン誘導体を用いた場合にも、官能基を損なうことなく反応は進行し、目的の付加体をそれぞれ良好な収率で得た。また、芳香族アルケンだけでなく、脂肪族アルケンもこれらの反応に適用可能であった。ラジカルトラップ実験やラジカルクロック実験の結果から、本付加反応がラジカル機構を経由して進行することを明らかにした。
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