本研究では、有機分子触媒を用いた重合をより環境に負荷のかからないものにするために、再利用が可能なイオン液体を触媒とした新規リビング重合の確立を目的とした。イオン液体を用いた反応溶液内で生成している活性種(真の触媒)を決定するため、イオン液体を用いた(メタ)アクリル酸エステル類の重合を検討した。イオン液体としてイミダゾリウムカチオンをベースとし、アニオン種がそれぞれ異なるものを用いたところ、イミダゾリウムカチオンとアセテートアニオンを有したイオン液体を用いた場合のみ重合が進行した。本検討で試みた重合はN-ヘテロサイクリックカルベンでのみ進行するものであるため、イオン液体の反応系で発生している真の触媒がN-ヘテロサイクリックカルベンであることが示唆された。生成ポリマーの構造解析を核磁気共鳴及び、質量分析により行ったところ、重合開始剤由来の構造を末端に有するポリ(メタ)アクリル酸エステル類であることが確認された。このことからも、イオン液体系の重合における活性種がN-ヘテロサイクリックカルベンである可能性は高いといえる。 以上の検討を応用し、イオン液体が持つセルロース溶解能力を活かして、触媒的セルロース修飾反応を行った。この時、イオン液体の特徴であるリサイクル性能に着目し、反応後のセルロース誘導体を単離したことで排出されたイオン液体を再度セルロースの修飾に用いたところ、セルロースの修飾化率に大きな減少は見られず、依然として高い効率での化学修飾が可能であったことから、イオン液体のリサイクルが可能であるということを実験的に証明した。さらに、これらの修飾反応は従来ではセルロース数ミリグラムスケールでの仕込み量で行われるが、本研究で達成された反応系ではグラムスケールまで拡大することが可能であり、工業応用も十分に期待できるものであった。
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