研究課題/領域番号 |
16K17912
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
覚知 亮平 金沢大学, 自然システム学系, 特任助教 (00743816)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多成分連結反応 / 配列制御重合 |
研究実績の概要 |
生体内に存在するポリマーの多くはそのモノマー単位が規則正しく配列しており、その制御されたモノマー配列により様々な機能を発現することが知られている。この配列制御を人工的に行うことにより、新しい高分子材料の可能性が引き出されると期待されている。本研究では、とりわけ生物由来モノマーの配列制御重合に力点を置き、生物由来モノマーから容易に高分子量体が得られ、同時に配列制御が可能な重合系の開発を目標とした。本年度は、上記研究目的の達成のため、多成分連結重合に必要なモノマー群を生物由来資源の一つであるアミノ酸から誘導した。はじめに、多成分連結反応としてPasserini反応を選択し、そのためモノマーとしてビスカルボン酸、ビスイソシアニド、およびアルデヒドモノマーの合成に着手した。アミノ酸由来モノマーの合成は円滑に行われたが、生成モノマーが一般的な有機溶媒に難溶性を示した。そのため、様々なモノマーの合成を行い、一般有機溶媒に可溶なモノマーの分子設計を確立した。具体的には、トリエチレングリコール鎖をモノマー骨格に導入することで、共存官能基に左右されずに一般有機溶媒に可溶化することが判明した。ここで、得られたアミノ酸誘導ビスカルボン酸、ビスイソシアニド、およびアルデヒドモノマー間の反応を行い、多成分連結反応が進行することを明らかにした。以上より、本年度は本研究の最も重要な課題である生物由来資源から誘導したモノマー間の多成分連結反応に成功した。そのため、萌芽的ではあるが、生物由来資源の配列制御に成功したと判断している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Passerini反応によるアミノ酸誘導体モノマーの配列制御重合を目的とし、アミノ酸誘導モノマーであるビスイソシアニド、ビスカルボン酸、アルデヒドの合成を行った。前述のように、得られたモノマー群は種々の一般有機溶媒への溶解性が極端に低いことが確認された 。モノマー分子の低溶解性はPasserini重合反応において、反応条件設定を困難にする。そこで下記を考慮し、アミノ酸の一種であるシスチンをリンカーとして用いた。つまり、シスチンはアミノ酸の二量体であり、ビスイソシアニドおよびビスカルボン酸の誘導が可能である。さらに、低溶解性モノマーの場合には一方の官能基に高溶解性官能基を導入可能な点で本実験のリンカー分子に好適であると判断した。実際に、リンカーであるシスチンにトリエチレングリコールを導入することで、高溶解性モノマー群の設計・合成に成功した。つづいて、上記にて得られた三種類のアミノ酸誘導モノマーに対するPasserini重合を行った。Passerini重合は、上記のモノマーを溶媒に溶解し、三日間攪拌することで行った。重合によって得られた生成物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定により解析を行ったところ、得られたポリマーの重量平均分子量が3800 g/molとなることを確認した。以上よりPasserini反応により、アミノ酸誘導オリゴマーの形成が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を活用し、今後は下記に関して研究を進める。はじめに、重合系に適用可能な多成分連結反応の最適化ならびに拡張を行う。本年度では、Passerini3成分連結反応によるアミノ酸誘導体の配列制御重合を萌芽的に示した。本合成系の特徴を生かすためにも、他の多成分連結反応の適用を目指す。第二に、アミノ酸誘導体のみならず他の生物由来モノマーをコモノマーとした多成分連結重合に本系を拡張する。具体的には、アミノ酸誘導モノマーの代替に糖誘導モノマーや生物由来芳香族系モノマーをコモノマーとする多成分連結共重合を試み、新しい高分子材料の合成を試みる。第三に、合成した高分子化合物の各種物性評価(ガラス転移点、融点、粘弾性、引っ張り強度)も平行して行う。これらの諸物性に関しては、示差走査熱量測定(DSC)、粘弾計などの測定により評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初、多成分連結に必要不可欠なモノマーの合成に注力した。しかしながら、得られたモノマーの一般有機溶媒に対する溶解性が極端に低かったため、モノマー設計の細密化およびその合成に多くの時間を費やした。最終的には、目的とするモノマー群の合成指針は得られたが、当該年度の多くの時間を費やすこととなった。従って、当初計上していた化学試薬や溶媒、実験器具等の消耗品を購入するに至らず、当該年度の支出額は予定していた当初のそれより少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終的には目的とする多成分連結反応に適したモノマー群の合成に成功した。さらに、萌芽的ではあるが、得られたモノマーの多成分連結重合にも成功している。そのため、次年度は多成分連結重合の最適化およびモノマーの再設計や拡張等に力を注ぐ予定である。年度をまたいだが、研究計画そのものは次の段階に計画に沿う形で進展する。そのため、当初計上していた化学試薬ならびに実験器具等の消耗品を購入する必要が生じる。次年度では、今年度使用しなかった予算ならびに次年度に計上した予算を活用し、本研究の展開を加速させる。
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