研究実績の概要 |
主鎖をセルロースに、異種グラフト側鎖を位置選択的に導入した高分子ヤヌス型ボトルブラシが形成する新規高次構造の創出を目的に、精密高分子合成および構造解析に関する研究を遂行した。最終年度には、異種グラフト側鎖の高効率導入法を確立し、側鎖分子量の異なるセルロース系ヤヌス型ボトルブラシを高収率かつグラムスケールで合成することに成功した。そのため、当初の計画にあったセルロース系ヤヌス型ボトルブラシが形成するミクロ相分離構造の観察および構造解析を達成し、相図の作成に至ったことから、構造解析研究が大きく前進したと考える。さらに、セルロース系ヤヌス型ボトルブラシの単分子膜がネマチック液晶のゼロ面アンカリング効果を有することを見出し、高輝度液晶ディスプレイ等への応用につながる成果を得た。 また、研究期間全体を通じて得られた成果の概要を示す。(1)主鎖にセルロース、その6位水酸基にポリスチレン(PS)鎖を導入したセルロース系ボトルブラシ(一本鎖型)を精密に合成し、その希薄ジメチルホルムアミド溶液中における分子鎖形態をサイズ排除クロマトグラフィー-多角度光散乱(SEC-MALS)および小角X線散乱(SAXS)測定により解析したところ、みみず鎖で記述された当該分子の剛直性はセルロースと同程度であり、側鎖分子量の影響が反映されないことを解明した。これはセルロース固有の剛直性に起因すると考察した。(2)6位にPS鎖、2,3位にポリエチレングリコール(PEG)鎖を有するセルロース系ヤヌス型ボトルブラシの精密合成とその分子鎖特性解析を遂行したところ、みみず鎖では実験結果を再現できず、らせんみみず鎖による記述が妥当と判断した。本結果の解析により、セルロース主鎖のらせん性と異種側鎖間のミクロ相分離がカップルした新しい挙動を見出すことができた。以上、当初計画した研究内容をほぼ達成できたと判断した。
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