研究実績の概要 |
遷移金属錯体を用いたジアゾ酢酸エステルの重合によって、炭素-炭素単結合からなる主鎖骨格のすべての炭素上にエステルが結合したポリマー[ポリ(アルコキシカルボニルメチレン)]を得ることができる。このポリマーは、同じ側鎖を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルに比べて高い側鎖官能基密度を有していることから、官能基集積ポリマーとして特異的な物性の発現が期待できる。本研究は、この重合法において、制御/リビング重合および立体特異性重合が可能な開始剤系の開発を目指すものである。加えて、現状ではこの新規ポリマーにおいて立体構造のNMRによる解析手法が確立されていないため、低分子モデル化合物を用いた明確な帰属の達成を目標としている。 種々のPd錯体を用いたジアゾ酢酸エステルの重合の検討の結果、新たにPd(nq)2/NaBPh4開始剤系(nq = 1,4-naphthoquinone)を用いることで、比較的高分子量体のポリマーが収率よく得られることを見出した。生成したポリマーの末端構造をMALDI-TOF-MSにより解析し、本開始剤系によるジアゾ酢酸エステルの重合メカニズムの提案に成功した。 さらに、新規Pd(II)錯体[Pd(cod)(Cl-nq)Cl](cod = 1,5-cyclooctadiene)にボラートとしてNaBPh4を組み合わせた開始剤系を用いることで、立体構造のかなり制御されたポリマーが得られることを見出した。興味深いことに、この新規Pd(II)錯体は、アニオン性NQ配位子を有するPd(II)錯体合成の初めての例で、さらに、Pd開始剤系を用いたジアゾ酢酸エステルの重合において最も立体制御能の高いポリマーを与える錯体であった。 これらの成果はジアゾ酢酸エステルの重合において望まれている優れた開始剤系の開発に大きく寄与するものであり、今後ますますの発展が見込まれる。
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