研究課題/領域番号 |
16K17918
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島田 林太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (70548940)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛍光分光 / 分光画像計測 |
研究実績の概要 |
蛍光顕微鏡に代表される分光顕微画像計測技術を向上し、画像情報及びスペクトル情報の同時取得と、その高感度化・高速化のため、測定の多点同時計測化と、取得データの数値的解析にもとづいた新規分光画像計測技術の開発を行った。本年度は【A.多空間点同時計測ハイパースペクトルイメージング分光器の開発】と、【B.取得データの自動数値的解析法の検討】を中心に研究を行った。 【A.多空間点同時計測ハイパースペクトルイメージング分光器の開発】においては、多空間点同時計測ハイパースペクトルイメージング分光器のプロトタイプ制作を行った。本装置の中心的な機能をなすアダマールマスクは、当初の実験計画ではガラス基板上にアダマール配列をクロム蒸着したものを複数種作製し、使用する予定であったが、これを変更しデジタルミラーデバイスを用いた設計を採用することにした。デジタルミラーデバイスは電気的に制御可能な微小ミラーの集合体であり、コンピューター制御により、自由にマスク形状を制御することが可能な光学装置である。本装置を用いることで、多様なアダマールマスク形状の検討や、測定ルーチーンの完全自動化・高速化、蛍光励起光照射系への応用などの利点が期待できる。プロトタイプ装置開発ではデジタルミラーデバイスの制御系構築を主に行い、自由なマスクパターンの表示およびタイミング制御が可能となった。 【B.取得データの自動数値的解析法の検討】においては、取得した大量の多点同時計測データを主成分分析と独立成分分析を組み合わせた計算法を検討し、新たな自動スペクトル・画像分離解析法の開発を行った。蛍光スペクトルと重畳して現れるラマンスペクトルを分離する際に、主成分分析で得られたスペクトル成分の組み換えを、非負拘束のもとで最も独立性が高い成分を探索することで、ほぼ自動的に良好な分離が達成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、イメージング分光器の開発を初年度、次年度に励起光照射光学系を組み合わせた蛍光ハイパースペクトルイメージング装置の開発を行う予定であった。しかし、(研究実績の概要)でも述べたように、当初の計画には考えていなかったデジタルミラーデバイス装置を利用した装置設計を着想できたおかげで、イメージング分光器と蛍光励起照射系の設計、構築を本年度に並行して行うことができた。反面、アダマールマスクの詳細な検討について時間を割くことができず、次年度への持ち越し課題となった。全体を通してみると当初の計画と順序は異なるものの、必要な装置開発段階を着実に遂行できているため、研究は概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、昨年構築したデジタルミラーデバイス制御系を光学系に組み込み、多空間点同時計測蛍光ハイパースペクトルイメージング装置の開発をまず行う。開発した装置を用い、アダマールマスクをはじめとした光学素子の最適化、多点同時測定の原理実証を行う。 その後、開発したイメージング分光器を蛍光顕微分光計測に応用し、その性能の限界を検証する。蛍光顕微分光への応用では、高い空間分解能と測定時間の短縮化に注力する。デジタルミラーデバイスの自由度を活かし、多点同時計測次数と検出感度、速度、信号雑音比の関係について条件検討を行い、最適化を行う。また、電子増倍型の高速高感度CCDカメラを用い、全体の画像取得の高速化を図る。観察面以外からのノイズ信号量を定量評価し、その除去方法について検討する。まずはAperture Correlation法に基づいた解析を試み、信号雑音比と空間分解能の同時向上の可能性を検討する。 年度後半では、開発した装置を用い、生細胞の蛍光観察を行う。多重蛍光標識した生細胞の蛍光ハイパースペクトル測定を行い、重なり合う蛍光信号のスペクトル分離や、局所的なスペクトルピーク位置変化の有無を検証し、蛍光顕微測定におけるスペクトル情報利用の可能性を探求する。スペクトル解析については昨年度に開発した自動数値的解析法を応用し、蛍光スペクトルの自動分離を行う方法を検討する。さらに、生細胞の蛍光観測について、本手法と既存手法の比較を行い、分光性能、イメージング性能、測定速度、感度それぞれについての性能向上度を定量的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では備品として200万円相当の空間位相変調光学素子の購入を計画していた。しかし、装置構成方法の詳細な検討により、方式は違うものの必要な光学変調の性能を有し、かつ、より安価(120万円)な製品を採用することにしたため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな装置構成方法のもとで従来は見込んでいなかった光学部品、機械部品の購入に残余金を充当する。
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