本研究の目的は、複数種類の酵素を細胞内で形成される多角体タンパク質に内包し、カスケード反応を促進する固体触媒を創製することである。今年度は、昨年度作成したH1ヘリックスを融合したリパーゼを発現するバキュロウイルスを用いて多角体タンパク質と同時に昆虫細胞(Sf21)に感染させ、多角体結晶への取り込みを検討した。多角体結晶は、野生型とアミノ酸残基を欠損した変異体を用いた。作成したリパーゼ内包多角体は、細胞内で結晶が形成された。複合結晶は、加水分解反応を促進することが見られた。しかしながら、リパーゼの多角体結晶への固定化量の定量にはいたっておらず、現在は、ELISAによる固定化リパーゼの定量をするために、His-tagをリパーゼに融合した融合タンパク質を作成し、His-tag抗体によるリパーゼ固定化量の定量を試みている。次に、複数酵素によるカスケード反応を目指し、アルコールデヒドロゲナーゼを多角体内部への固定化を目指し、アルコールデヒドロゲナーゼを発現するバキュロウイルスの作成を行っている。 また、結晶内での基質のアクセスを制御する多角体変異体の作成も行った。多角体タンパク質の分子界面に存在するアミノ酸残基を3残基と38残基欠損した変異体を作成し、sf21細胞内で結晶化した。アミノ酸を欠損したにもかかわらず、これらの変異体は結晶を形成し、結晶構造解析でも野生型と欠損部位は構造が変わらないことがわかった。これらの変異体は、外来分子を取り込みやすいことがわかっており、今後、基質の取り込みを促進し、内包した酵素の反応性の制御を期待できる。
|