生体内の様々な形状・サイズのタンパク質多量体はボトムアップ型のプロセスで作られ、協同的な基質分子結合、金属原子の貯蔵などの機能を有している。このようなユニークな機能の人工再現には、タンパク質を決まった様式で会合させるナノレベルの構造制御が必要となるが、その知識基盤は十分に確立していない。本研究では、多量体の人工構築法を発展させるため、タンパク質の部分構造が分子間で交換するドメインスワッピングにより形成させた二量体と、それをビルディングブロックとした高次多量体を構築し、多量体構築原理の理解と機能部位連携する多量体構築を目指した。 平成30年度はこれまでに得られたミオグロビンのヒンジ領域のヘリックス形成能とドメインスワッピング傾向の相関についての知見を踏まえ、安定なドメインスワップ二量体構造を有する変異体と金属イオンの相互作用を利用した高次構造体構築に取り組んだ。野生型ミオグロビンを用いて作製した二量体を金属イオン共存下で結晶化させると多くの条件で沈殿を生じ、結晶は得られなかった。一方で、ヒンジ領域のヘリックス形成能を増大させた変異型ミオグロビンの二量体では、亜鉛イオンの共存下でこれまでとは異なる形状の結晶が生じた。SPring-8におけるX線結晶構造解析により、この結晶中では、ミオグロビンのドメインスワップ二量体が亜鉛イオンによって架橋された高次多量体となり、サイズの異なる3種類の小孔を有する結晶構造をとっていることが明らかとなった。 本研究課題の研究期間全体を通じて、ミオグロビンのヒンジ領域のヘリックス形成能とドメインスワッピング傾向が相関しており、ヘリックス形成能を増大させた変異型ミオグロビンを用いることで、ドメインスワップ二量体をビルディングブロックとした特異な構造を有するタンパク質超分子を構築可能であることが示された。
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