研究課題/領域番号 |
16K17936
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
太 虎林 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特任助教 (40512554)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水素 / ヒドロゲナーゼ / 酸塩基平衡 / 光活性化 / FT-IR |
研究実績の概要 |
硫酸還元菌由来[NiFe]ヒドロゲナーゼでは、活性準備状態Ni-SIrは酸塩基平衡により活性状態の一つであるNi-SIaに変換され、H2の分解/合成が可能となるが、この酸塩基平衡反応機構の詳細は不明であった。2016年度では、H2還元型酵素を5当量のフェノサフラニン(Em = -252 mV)を用いて部分的に酸化させ、主にNi-SIrとNi-SIaを含むフェノサフラニン酸化型酵素を調製した。低温(103-238 K)でレーザー光(514.5 nm)照射下のフェノサフラニン酸化型酵素のFT-IRスペクトルを測定することで、Ni-SIrはNi-SIaに光活性化することを発見した。溶液のpHを8.0から9.6に上げるとNi-SIrの光活性化が著しく抑制されたことから、この光活性化反応では架橋配位子OH-とFe或いはNi間の配位結合の一つが切れることでプロトン化され、H2Oとして解離すると解釈した。一方、従来の研究により、Ni-SIrは不活性状態Ni-SLに光変換されると提唱されていたが、好気的に精製した不活性状態の酵素への光照射により、Ni-SLは本酵素で報告されているどの不活性状態よりも活性化されにくい新しい不活性状態(Ni-SXと命名)から光変換されることを突き止めた。Ni-SXはin vitroでのO2による本酵素の不活性化では形成されないが、細胞(硫酸還元菌)内環境下で形成されることが示された。硫黄の代謝に関与するほかの[NiFe]ヒドロゲナーゼで、システイン配位子の一つがペルスルフィド化された不活性状態がX線結晶構造解析より提唱されており、その不活性状態の分光学的性質がNi-SXと酷似していることから、Ni-SXでも類似した活性部位構造が形成され、酵素の活性化が阻害されたと解釈した。これらの結果は、[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性化/不活性化機構の理解に寄与するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活性準備状態Ni-SIrが不活性状態であるNi-SLに光変換されると考えられていたことが間違いで、Ni-SIrはNi-SIaに光活性化することを発見した。Ni-SLは本酵素で報告されているすべての不活性状態よりも活性化されにくい新たな不活性状態(Ni-SXと命名)への光照射により生成することを突き止めた。Ni-SXでは、Niに末端配位しているシステイン配位子の一つがペルスルフィド化されることで、活性化が阻害されたと解釈した。これらの研究成果をPhysical Chemistry Chemical Physics誌(2016)に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度では、光照射後のNi-SIaからNi-SIrへの再平衡化反応のキネティクスの温度依存性をFT-IRスペクトルにより追跡し、Ni-SIaからNi-SIrへの脱プロトン化反応の活性化エンタルピーと活性化エントロピーを求めることで、本酵素の酸塩基平衡機構を明らかにする。さらに、Ni-SIrとNi-SIa間の酸塩基平衡反応過程で供給・放出されるプロトンの輸送に関与するアミノ酸を特定し、本酵素の活性化・不活性化機構の全容解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
特注品の納品が若干遅れたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度の物品費に充てる。
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