研究課題/領域番号 |
16K17937
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野口 誉夫 九州大学, 工学研究院, 学術研究員 (00632431)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 蛍光センサ / 自己組織化 / 創発性 / 分子認識 / 分子情報変換 / 臨床化学検査 / 腫瘍マーカー検出 / 環境分析 |
研究実績の概要 |
分子の自己組織化を、分子を積み木のように積み上げる「ボトムアップツール」から、分子構造情報を分子集合体(モルフォロジー)に変換する「分子情報変換システム」と発想を転換することで、Lock-and-Key結合に基づいた従来の分子認識とは一線を画す、自己組織化の創発性を活用した分子認識系ならびに蛍光センシングシステムの創成に取り組んだ。
まず、積層することで初めて蛍光を発するオリゴフェニレンビニレン(OPV)を基本骨格とした蛍光センサ(OPVセンサ)を開発し、分子設計指針を提示した。その中で、大きなダイポールモーメントを有するOPVセンサは、ATPに対してJ-会合体を形成し赤色発光、NADPHに対してはH-会合体を形成し黄色発光を示すことを見出した。また、天然由来アニオン性多糖類のグリコサミノグリカン(ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸)においては、ヘパリンに対してH-会合体を形成し弱蛍光発光、ヒアルロン酸に対してはJ-会合体を形成し強蛍光発光を示すことを見出し、従来のLock-and-Key結合に基づく分子認識では実現が困難であったヒアルロン酸選択性を達成した。さらには、ポリアニオン化合物について、見かけ上1:1結合に基づいた直線的蛍光応答を示すことを明らかにし、センシングメカニズムを提示することで、ポリアニオンセンシング系を確立することができた。
以上により、ゲスト分子の分子構造情報(初期条件)によって蛍光センサの自己組織化経路が一義的に決定された結果、分子認識ならびに蛍光センシングが達成されるという、「創発的分子認識に基づく蛍光センシング系」のコンセプト提示に至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
積層することで初めて蛍光を発するオリゴフェニレンビニレン(OPV)を基本骨格とした蛍光センサ(OPVセンサ)を開発した。大きなダイポールモーメントを有するOPVセンサは、ATPに対してJ-会合体を形成し赤色発光、NADPHに対してはH-会合体を形成し黄色発光を示すことを見出した。また、天然由来アニオン性多糖類のグリコサミノグリカン(ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸)においては、ヘパリンに対してH-会合体を形成し弱蛍光発光、ヒアルロン酸に対してはJ-会合体を形成し強蛍光発光を示すことを見出し、Lock-and-Key結合に基づく従来の分子認識では実現が困難であったヒアルロン酸選択性を達成した。さらには、適切な蛍光センサや溶媒条件を適用することで、望みの選択性でのグリコサミノグリカンセンシングを実現した。 以上のことは、積層様式により蛍光応答を大きく変化させる蛍光センサの開発により初めて実現されたものであり、「結合の強さに基づく選択性」というLock-and-Key結合に基づいた従来の分子認識とはコンセプトを異にする、「積層様式に基づく選択性」という新たな分子認識コンセプトの創成を意味する。 また、ポリアニオン化合物について、見かけ上1:1結合に基づいた直線的蛍光応答を示すことを明らかにした上で、センシングメカニズムを提示することで、ポリアニオンセンシング系の確立にも至った。 以上により、本研究課題の主目的である、ゲスト分子の分子構造情報(初期条件)によって蛍光センサの自己組織化経路が一義的に決定された結果、分子認識ならびに蛍光センシングが達成されるという、創発的分子認識に基づく蛍光センシング系を提示することができたと言える。また、申請者は企業1社と技術移転に向けた知財契約を締結した。知財契約に基づき、開発した蛍光センサを企業に提供し、実用化に向けた評価が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
創発的分子認識系の応用展開を図っていた中で、キラル認識が可能となる予備実験結果を得た。次年度は、キラルセンシング系を確立し、蛍光によるエナンチオマー過剰率の決定法を確立する。一方で応用面については、企業と連携することで、腫瘍マーカーの蛍光検出キット等を開発し、疾患の迅速・簡便・高感度診断あるいはスクリーニング検査へ応用する。さらには、開発した蛍光センサを細胞内に導入し、細胞内ATPイメージングや病態・薬効診断への応用展開を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、創発的分子認識という新概念を創成し、それにより実現される新技術を提示した。新技術の応用に向け、直接経費の前倒し請求をし、測定機器(プレートリーダー)の購入に充てた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、応用に向けた研究に必要な消耗品に充てる。また、新概念・新技術を学会のみならず企業にも広く発信するために、学会参加や技術展等への旅費に充てる。
|
備考 |
本研究課題に係る成果が、日刊工業新聞の記事で紹介された(2016年5月19日)。
|