研究実績の概要 |
本研究は、架橋部に硫黄元素を持つシンプルな二量体構造の含硫黄ジフェノールを母体とした白金族金属に高親和性を有する新奇白金族抽出剤の合成および自動車触媒由来の酸浸出液からの白金族金属を選択的に抽出できるシステムの構築を目的とした。 最終年度は、工業的希釈剤のケロシンに溶解させることを目的に含硫黄ジフェノールに5種のジアルキルアミノ基(アルキル基はエチルからヘキシル)を導入した抽出剤を合成した。各抽出剤はケロシンに溶解性を示すものの、Pd(II), Pt(IV), Rh(III)の単独溶液から抽出を行った際、第三層(固体層)の生成が観測された。そこで、改質剤としてn-オクタノ-ルをケロシンに混合して抽出実験したところ、第三層の形成を抑制することができた。次に、5種のジアルキルアミノ抽出剤の白金族金属に対する抽出能力を評価した結果、アルキル鎖がヘキシル基の抽出剤が最も抽出効率が良いことを示した。 スロープ解析では、1個のPd(II)或いはPt(IV)を抽出剤1分子で抽出していることを示した。核磁気共鳴スペクトルおよび赤外吸収スペクトル解析から、抽出剤が塩酸を抽出した後、アニオン交換によりPd(II)とPt(IV)を抽出していることが明らかとなった。 自動車触媒由来の酸浸出液からの抽出実験では、Pd(II)とPt(IV)に高い抽出能力を有し、他の金属種に対しては、殆ど抽出しないことがわかった。逆抽出では、チオ尿素-塩酸溶液を用いることが最も有効であるという知見が得られた。本抽出剤の再利用性についても検討し、抽出能力の低下が見られず、有益な抽出剤であることが示された。 以上、研究期間全体で開発した白金族抽出剤を組み合わせることで、自動車触媒由来の酸浸出液から効率的にPd(II)とPt(IV)のみを分離・回収することが可能であり、白金族金属を分離・回収する一連のプロセスを構築することができた。
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