研究課題
本研究では、非レア金属と天然アミノ酸からなる多核金属錯体触媒の構築と、水還元触媒機能の開発について検討した。初年度は、配位子として含硫アミノ酸の一種であるペニシラミンを選択し、直線性架橋金属であるジアンミン白金(II)ユニットをもち、かつ2分子のアミノ酸を含む単核錯体の合成と、その遷移金属イオンとの反応性および得た生成物の電気化学挙動の調査を行った。得られた錯体については、IRスペクトル、NMRスペクトル、吸収、CDスペクトル、元素分析により組成を同定するとともに、単結晶X線構造解析によりその分子構造を決定した。これにより、様々な金属イオンの組み合わせおよび分子構造をもつ錯体群を得た。また電気化学挙動の調査として、不均一系におけるリニアースイープボルタンメトリとバルク電解、ガスクロマトグラフを組み合わせて分析をおこなった。上記で得た金属錯体のうち、パラジウム(II)-金(I)錯体は、グラッシーカーボン電極上において、溶媒の水分子を活性化し、オンセット電位-1.10 V(vs. Ag/AgCl)で水素を発生することが分かった。さらに、ペニシラミン配位子のカルボキシ基が非配位であることが判明したため、次にこの錯体の第三の金属イオンとの反応性を調査した。第三の金属イオンとして、ニッケルイオンを添加することにより、3種の金属イオンが混合配位した錯体を単離した。この電極反応を調査したところ、オンセット電位-0.98 V(vs. Ag/AgCl)で水素を発生することが分かり、金属イオンの共同効果が発現することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、含硫アミノ酸と金属イオンから錯体合成に成功している。これまでに明らかにされている錯体群を含め、今回新たに白金(II)錯体ユニットをベースとした錯体群の発掘を達成した。さらに、それらの水を還元する機能についても調査を進め、異種金属イオンの共同効果によって発現する機能性も見出しており、研究は順調に進展していると考える。
様々な金属イオンの組み合わせからなる異種金属錯体群の単離にこれまで成功している。これらの電極反応を調査することで、共同効果を最大限に得られる系の開拓をおこなう。特に、第二・第三周期の金属イオンを置き換えた時の効果を重点的に調べて、第一遷移金属イオンからなる錯体群の可能性を評価するとともに、この種の機能性発現の原理を追求して行く。
本年度、まずは対象物質の情報を網羅的に調査する必要があったため、試料の合成よりも試料の分析に調査時間を割いた。そのため、物品費が当初予定よりも必要なく、一方で試料分析費に資金を要した。なお、次年度では、新規物質群の開拓が命題となるため、本年度よりも物品費を要するものと思われる。また他の一般財団からの援助もあり、旅費等も一部支給で済んだ。
上記のように、次年度では、新規物質の合成に研究の重点を置くため、物品費がより必要になると思われる。また、分析についても同様に進めていくため、同様に分析費が必要になるものと思われる。また、次年度は国際学会での発表を予定しているため、これに前年度分の旅費を充填したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Chem. Commun.
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10.1039/C6CC08789B
Chem. Sci.
巻: 8 ページ: 2671-2676
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