本研究は,有機π共役ユニットを合成化学的手法により極めて精密かつ強固に集積し,集合体として発現される物性と機能の最大化に挑むものである.本助成期間中はその端緒として,拡張π共役ユニットを構成要素とする金属-有機構造体(MOF)の創製と機能開拓を研究課題とした.平成29年度は前年度の結果を踏まえ,①拡張π共役系を組み込んだ有機リンカー分子の再設計とその合成,および,②前年度に合成した旧リンカーと今年度に合成した新規リンカーのそれぞれを用いたMOFの合成検討,の2項目に取り組んだ. 項目①については,前年度の検討で初めに設計したペンタセンの熱前駆体(CPEN)を部分ユニットとする有機リンカーが,目的とするMOFの合成に適さないことが判明した.そのため本年度は,新たに2種類のリンカーを設計しそれらの合成検討を行った.これまでにリンカーの合成スキームを確立し,対応するMOFの合成検討に順次移行している. 項目②については,旧リンカーを用いた検討を昨年度から継続して実施した結果,結晶性化合物が得られる条件を見出した.単結晶X線構造解析による構造決定にも成功しており,過去に報告例のない結合様式で金属クラスターと有機リンカーが連結されていることを確認した.また,新規リンカーを用いた場合にも同様の結合様式をもつ化合物が生成することを示唆する結果が得られた.今後は,得られた化合物の物性評価に加え,目的とするMOFの合成に向けてリンカー構造とMOF合成の条件をさらにチューニングしていくことが課題である.
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