研究課題/領域番号 |
16K17951
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
塚田 学 東京理科大学, 理工学部工業化学科, 助教 (60632578)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素 / ヒドロゲナーゼ / モデル錯体 / 多核錯体 / ポリシルセスキオキサン / 有機無機ハイブリッド / プロトン伝導膜 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、クリーンな次世代エネルギー源である水素の環境負荷の低い発生方法の開発を目指し、ヒドロゲナーゼモデル錯体とプロトン伝導性を有するポリシルセスキオキサンとのハイブリッド膜とこれを担持した電極の作成、およびこの電極を用いた水素発生を行う。 平成28年度は、新規ヒドロゲナーゼモデル錯体として鉄原子2つとルテニウム原子1つを有する鉄-ルテニウム3核錯体の合成法の確立を目指した。まず、合成条件を種々検討することで、収率の向上を達成した。得られた3核錯体には、金属間の結合角が異なる2種類の異性体が存在することを単結晶X線構造解析から明らかにした。また、これら2種類の異性体は、再結晶時の温度条件をコントロールすることで、作り分けることができた。また、理論計算とNMRスペクトルの解析結果から、溶液中では単一成分のみ存在することが示唆された。この3核錯体は、アセトニトリル中での電気化学測定において不可逆な2段階の還元波を示した。さらに酢酸を滴下した際に、触媒電流が観測された。このことから、3核錯体が電気化学的還元雰囲気下で、プロトン還元の触媒として働くことが示唆された。 また、修飾電極の作成検討も行った。ヒドロゲナーゼモデル錯体として最も一般的な鉄2核錯体とナフィオンとのスラリーを調製し、これにグラッシーカーボン電極を含浸させることで、ナノコンポジット修飾電極の作成を行った。この電極をアセトニトリルに浸し、3電極系で酢酸を滴下しながら電気化学測定を行ったところ、プロトン還元に由来すると考えられる還元波を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、鉄-ルテニウム3核錯体の合成法を確立し、その構造および物性について詳細に解明することに成功したことから、この錯体がヒドロゲナーゼの新しいモデル錯体となることを見いだせた。現在、この内容について論文を作成している。 また、既存のヒドロゲナーゼモデル錯体とナフィオン、およびグラッシーカーボン電極を用いて、ナノコンポジット修飾電極の作成に成功した。この電極が酢酸存在下でプロトンを還元していることが示唆される結果が得られたことから、本研究の方針で低環境負荷な水素発生電極の開発に繋がると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、残りの期間で鉄-ルテニウム3核錯体/ポリシルセスキオキサンハイブリッド膜の調製と、これによる表面処理を行ったグラッシーカーボン電極の作成および水素発生の評価を行う。 まず、プロトン伝導膜として用いるポリシルセスキオキサンの調製を行い、これと3核錯体との混合比を検討しながら、ハイブリッド膜の調製を行う。調製した膜については熱的安定性や各種有機溶媒に対する耐久性などを調べる。この膜の調製結果を用いて、グラッシーカーボン電極上に担持することでナノコンポジット修飾電極を作成し、触媒活性や電極の安定性について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では電気化学測定解析ソフト・DASiDigiSimおよびガスクロマトグラフィー用モレキュラーシーブスカラムを初年度に購入する予定であった。当該年度の研究成果により、これらのものを購入しなくても十分に研究が進行したため成果が得られたため、購入を見送った。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定よりも試薬および消耗品の使用が多いため、これらの購入にあてる。また、研究計画当初は予定していなかった国際学会に参加するための旅費としても用いる予定である。
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