本研究では、次世代エネルギー源である水素の環境負荷の低い新しい生成手法として、酵素ヒドロゲナーゼの活性部位のモデル錯体とプロトン伝導性を有するポリシルセスキオキサンとのハイブリッドを担持した電極を開発し、これによる水素発生を目指した。検討内容は、1.ヒドロゲナーゼモデル錯体の合成とその物性解明、2.モデル錯体/ポリシルセスキオキサンハイブリッド膜の調製、3.ハイブリッド膜の電極上への担持およびこの電極を用いた水素発生の検討、であった。 モデル錯体の合成に関しては、当初計画していた鉄-ルテニウム3核ジチオレン錯体の合成法を確立した。この錯体は、3電極系で酢酸を滴下しながら電気化学測定を行うと、プロトン還元に由来する還元波が観測されたことから、プロトン還元能を有することがわかった。つまりこの錯体は、ヒドロゲナーゼの新しいモデル錯体と期待できる。この錯体に加え、ヒドリド架橋型の2種類のジチオレン錯体、また、ルテニウム2核ヒドリドおよびルテニウム2核ジヒドリドジチオレン錯体の合成にも成功した。特にジヒドリド錯体は、二酸化炭素との反応においてギ酸の生成が示唆されるといった興味深い性質を見出した。 修飾電極の作成に関しては、モデル錯体として鉄2核ジチオレン錯体とナフィオンとのスラリーを調製し、これにグラッシーカーボン電極を含浸することで、ナノコンポジット修飾電極を作成した。この電極をアセトニトリルに浸し、3電極系で酢酸を滴下しながら電気化学測定を行ったところ、プロトン還元に由来する還元波が観測された。しかし、測定中に溶液の色が変化したことから、錯体が溶液中へ溶解していることが示唆された。そこで、上記のスラリー作成時にトリエトキシシランを混合し、このスラリーを用いて電極を作成して検討を行った。トリエトキシシラン混合系にすることで、溶液中への錯体の溶出を抑制することに成功した。
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