研究実績の概要 |
絹の高度に最適化された紡糸プロセスを理解し材料開発に活かすためには、カイコ体内における絹フィブロインの構造転移の解明が不可欠である。しかし、繊維化直前での構造転移はいまだ明らかとなっていない。そこで本研究では、固体NMR法を用い絹フィブロインの紡糸プロセスにおける構造転移の解明を目指した。 詳細にフィブロインの原子レベルの構造転移を追跡する手段として、固体NMR法のマジック角回転で試料にかかる遠心力により誘起される構造変化を経時的に観測する方法がある。本研究では、運動性の高い成分と低い成分の両方を観測可能な固体NMR測定を連続的に行うことで、液状絹フィブロインの構造転移を解析した。 13C CPMAS NMR測定および13C DDMAS NMR測定を交互に繰り返し、運動性の高い構造と低い構造を評価した結果、初期状態ではDDMAS, CPMASスペクトルとも繊維化前構造(Silk I)を示し、その後、DDMAS測定ではSilk Iのピーク強度が減少し、CPMAS測定では繊維化後構造(Silk II)のピークが出現した。このことから、マジック角回転によるSilkⅠからSilkⅡへの構造転移が確認された。13C CPMASにおけるSilkⅡピークの積分強度の経時変化から、絹フィブロインの主要アミノ酸残基Gly, Ala, Serとも測定開始から約70h後にSilkⅡへの構造転移が開始されることがわかった。一方DDMASでは、SilkⅠのピーク強度が70h前後まで緩やかに減少し、その後減少の傾きが大きくなった。これらの結果から、液状絹は繊維化過程において、まずSilkⅠ成分の運動性が徐々に減少し、ある時点から急激にSilkⅡへの構造転移が起こる2段階の構造転移を起こすことが明らかとなった。
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