アイオノマーとは、疎水性高分子に少量のイオン基を結合したイオン性高分子であり、1~2nm程度の直径で形成されるイオン基の凝集体が物理架橋点として作用するために、強靭性や反発弾性などの材料物性を発現すると考えられている。しかし、イオン凝集体の性質の変化が、アイオノマーの材料物性に与える効果の詳細解明は未解決の課題である。 本研究では、ポリエチレン(PE)をベースとしたアイオノマーのイオン凝集体が、半径約0.6nmで約50℃のガラス転移温度(Tg)を有するイオンコアと、イオンコアの影響でTgの上昇したPEからなる厚さ1nm程度のシェル層からなることを明かにした。さらに、ラウリン酸の添加によってシェル層を優先的に可塑化できることを明かにし、シェル層が室温でゴム状態の場合、仮にイオンコアがガラス状態であったとしても、試料の伸びが3割以上増加することを発見した。これは、延伸下において、高い張力の掛かったPE鎖に結合しているイオン基が、イオン凝集体から脱離するためだと考えられる。すなわち、イオン凝集体が強固な物理架橋点として作用する為には、イオンコアだけでなくシェル層もガラス状態である必要があることをはじめて明らかにした。 さらに、ポリイソプレンをベースとしたアイオノマーを新規に合成した。このアイオノマーのイオンコアのTgは約-49℃であり、室温ではゴム状態である。しかし、イオン基どうしが凝集して物理架橋点を形成するために、試料の流動が抑制され、室温において固体であった。我々は、このアイオノマーでは、イオン基の凝集体からの脱離と別の凝集体への移動が室温で起こる結果、架橋構造が動的に組み替わり続けていることを発見した。この動的なイオン架橋のために、このアイオノマーは室温で自発的な自己修復性をしめした。さらに、延伸速度に対して伸びと応力が大きく依存する性質を有することを発見した。
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