申請者は本研究を開始した平成28年度から現在に至るまで、金属空気2次電池に適用できる高性能な酸素発生触媒の開発と酸素発生反応(OER)のメカニズムの解明を目的に、OER活性の決定因子を探索してきた。まず始めに、液相合成と固相合成を組み合わせることによって得たMn2-xCoxO3のナノ粒子の触媒活性を測定した結果、Coの置換量が増えるにつれて(OER活性は維持したままで)酸素還元活性が飛躍的に向上した。これは、遷移金属イオンのeg 電子数が1付近の時、遷移金属酸化物は酸素発生・還元反応において最大の触媒活性を示すという原則が支配的でないことを意味する。そこで、”Mn3+をベース”という括りをはずして、eg 電子数が0の材料についても触媒探索を行ったところ、高圧合成法によってパイロクロア構造のRu酸化物が得られた。平成29年度には、このRu酸化物の酸素発生活性を系統的に調べることで、(結晶構造が同一でも)電子構造の僅かな差がOER活性に決定的な影響を与えること、活性サイトのRuが金属的かつ絶縁体的な電子状態を併せ持つと初期活性だけでなく安定性も高い高性能なOER触媒になることを明らかにした。最終年度の平成30年度には、申請者は2種類以上の陰イオンを有する混合アニオン化合物のOER触媒が従来の遷移金属酸化物とは異なるOER機構を有すると考え、その中でも超伝導体と関連の深い、特異な電子状態をもつSr2VFeAsO3-dのOER活性・反応機構を系統的に研究した。その結果、OERの活性サイトは陽イオンや陰イオンではなく、酸素欠損サイト自体が活性サイトの役割を果たし、酸素欠損サイト間の距離が十分に短ければ反応中にO-O結合が形成されてOER活性が著しく増強されることを見出した。
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