申請者が確立した界面活性剤ミセルを有機鋳型とするsoft-template法は、メソ多孔体を簡便に作製できる優れた手法であるが、克服すべき課題がいくつか残されている。その1つに、合成過程に高温焼成が含まれている点が挙げられる。高温焼成は「有機鋳型除去」と「無機細孔骨格の結晶化」に必要な過程であるが、無機骨格材料の結晶化温度が有機鋳型除去に必要な温度より著しく高い場合、骨格結晶化(結晶成長)が鋳型不在の中で行われるため、しばしばメソ細孔の崩壊が生じてしまう。また、無機細孔骨格内の微結晶を制御できずランダム配向しているため、無機結晶が持つ物性に異方性がある場合、異方的物性の打ち消し合いが生じてしまう。 そこで本研究では、「高温焼成を用いずにメソ多孔性セラミックス薄膜を合成する方法」と「無機細孔内骨格内の微結晶を制御する方法」の確立を目指した。 前者については、有機鋳型と無機骨格材料のマイクロ波吸収能の差を利用して、界面活性剤有機鋳型を保持しつつ無機骨格材料を選択的に加熱することで、高温焼成を用いない無機多孔性セラミックス薄膜合成の実現を目指した。マイクロ波加熱を行った結果、アナターゼ型に結晶化したメソ多孔性酸化チタン薄膜の高速合成に成功した。しかし、目的としていた界面活性剤鋳型の保持は行われなかった。これは、選択的に加熱された酸化チタンからの熱伝導により、有機鋳型の炭化・燃焼・分解などが生じ、結果として除去されたものと考えられる。 後者については、LaAlO3単結晶を基板に用い、液相におけるエピタキシャル成長を活用することで、酸化チタン微結晶の結晶面を揃えることができた。その結果、擬似的な単結晶骨格内にメソ孔が存在するようなメソ多孔性酸化チタン薄膜を得ることに成功した。
|