研究課題/領域番号 |
16K17974
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山縣 雅紀 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (80527119)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン液体 / リチウムイオン電池 / 電気二重層 |
研究実績の概要 |
本研究では、イオン液体を利用した高出力かつ高サイクル安定性リチウムイオン電池の実現を、特異的な電気二重層構造の形成によって達成するものである。これまでに、分極された電極上においては、Li塩を溶解させたFSIベースのイオン液体電解液系と他の系 (例えばTFSI系) で明確な違いが現れ、電極上第一層に小さなカチオン (この場合はLi+) が整列することで、擬似的なパッシベーション層を形成していると推測している。また、この特異的電極/電解液界面は圧倒的にコンパクトかつ低抵抗であるため、比較的高粘性のFSI系イオン液体電解液でも、一般的な有機溶媒系電解液と同等あるいは上回る出力特性が可能になると考えている。平成28年度は、FSI系ではない系での電極/電解液界面構造を、交流インピーダンス法によるスタティックな計測によって検証を試みた。具体的には、炭素骨格のベーサル面が露出した高配向性熱分解グラファイト(HOPG)を作用極とし、電解液はEMImBF4にLi塩を所定の濃度となるよう溶解させた系を用いた。この計測によって得られる微分容量から電極上の電気二重層容量を推測した。微分容量の電位依存性の結果より、印加電位が-1.5 V vs. Ag/Ag(I)以上であれば、リチウム塩の濃度に関係なくほぼ同等の微分容量を示したが、この電位以下では、リチウム塩の有無によって大きな容量の差が現れ、さらに高濃度 (1.5 mol dm-3) の系が低濃度系よりも大きな容量を示した。これはFSI系で得られた現象とほぼ同じであり、よって、Li+が電極表面で形成する特異的な二重層構造はBF4系でも形成されると思われる。さらに、この現象について、分子動力学法により電極/電解液界面の各イオンの挙動をシミュレーションした結果と照合し、その妥当性を評価することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における平成28年度の課題は、特異的電気二重層構造の形成条件の把握として、第1にイオン液体中のリチウム塩濃度の依存性を調査することであった。種々の電気化学的評価によって、イオン液体中での電極/電解液界面構造がリチウム塩の有無、かつ、その濃度依存性が確認できた。このような現象は通常の電解液では確認できないイオン液体特有の現象と位置づけることができ、また、FSI系のみならずBF4系でもその構造が形成されることが明らかとなった。さらに、その界面構造がリチウム塩濃度に強く依存することが明らかとなり、イオン液体を利用した電池の設計指針に大きく寄与するものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は28年度の成果を踏まえて、より実用電池で起こりうる様々な環境を考慮した評価を行う。第1に、特異的な電気二重層構造が電池の高出力時にも形成され得るかを検証する。この速度論的な評価を行う方法として電位走査法などによるダイナミックな計測を行う。すなわち、電気二重層形成には、分極電極付近でのLi+が対アニオンから脱出する速度、Li+の移動速度、イオン液体構成カチオンの排除速度などが影響すると考えられ、これらの律速過程の制限によって、特異的電気二重層構造形成の有無が決定すると考えている。一方で、想定される電池の使用環境温度範囲内において、同様にその電気二重層構造の形成条件を検証する予定である。
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