本研究では、イオン液体を利用した高出力かつ高サイクル安定性リチウムイオン電池の実現を、特異的な電気二重層構造の形成によって達成するものである。 これまでに得られた負極表面上に形成されると考えている特異的な電気二重層の形成条件下において、正極の充放電特性に及ぼす影響、さらには実際のリチウムイオン電池の特性への効果について検証を行った。電解液にはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド (TFSI)およびビス(フルオロスルホニル)イミド (FSI)をアニオンとするイオン液体中に、リチウム塩を溶解させた系で、リチウム塩濃度を0.43 から2.5 mol dm-3まで変化させたLi(NiMnCo)O2 (以下、NMC) に対する電解液の効果を評価するために、NMCを作用極(正極)、リチウムを対極(負極)とした2極式ハーフセルを作製し、その出力特性を評価した。その結果、従来のイオン液体系電解液系では達成し得ない10Cレートでの作動が可能となり、特に2.5 mol dm-3では一般的な有機電解液系を上回る出力特性が得られた。続いて、NMCを正極、グラファイトを負極とし、これまでに確認された効果がリチウムイオン電池としての特性に及ぼす効果を評価した。2.0、2.5、3.0 mol dm-3のリチウム塩を含むイオン液体電解液系は10Cレートにおいて、いずれも一般的な有機電解液系に匹敵する出力特性を示し、特に2.5、3.0 mol dm-3系では有機電解液系を上回った。最後に、長期サイクル特性を評価したところ、100サイクルで91.7%の容量維持率を達成し、一般的な有機電解液系を (81.3%) を上回った。 以上の成果より、本研究で見出された電解液デザインによって、イオン液体を用いたリチウムイオン電池の特性を大きく向上させることに成功した。
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