研究課題/領域番号 |
16K17978
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大西 有希 東京工業大学, 工学院, 助教 (20543747)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有限要素法 / 四面体要素 / 微圧縮性材料 / 圧力振動フリー / ロッキングフリー |
研究実績の概要 |
数値固体力学において有限要素法(FEM)は標準的な手法であり,産学界で広く利用されている.その利用が広範であるが故にFEMの定式化は既に完成していると思われがちであるが,実際には精度と安定性を両立するFEM定式化が未だ完成されていない問題が数多く残されている.中でも,複雑形状を持つ微圧縮性材料の大変形はFEM定式化が未完成で且つ利用需要が高い難問題として知られている. 研究代表者は新しいFEM基礎定式化として近年注目を集めている平滑化有限要素法(S-FEM)に注目し,複雑形状を持つ微圧縮性ゴム材料の大変形に適用可能な種々のS-FEM定式化を提案している.特に四面体エッジベースのS-FEM(ES-FEM-T4)とF-bar法を組み合わせたF-barES-FEM-T4は四面体1次要素でありながら圧力チェッカーボーディング(圧力振動),せん断ロッキング,体積ロッキング,コーナーロッキングの全てを防ぐことが出来る.これは従来の四面体要素では得られない精度の高い定式化であり,次世代FEM解析技術として期待されている. ただし,F-barES-FEM-T4はまだ提案されたばかりの手法であるが故にその適用範囲が明らかにされていない.動解析における安定性,ゴム材料以外の微圧縮材料での性能,接触安定性,高速化による計算時間の短縮などが主として不明あるいは未検討なままである. そこで本年度は未検討であった上記項目について検討し,F-barES-FEM-T4が真に次世代のFEM定式化となり得るかを明らかにする.具体的には,動的陽解法でのエネルギー安定条件究明,弾塑性材料での精度評価,接触解析での精度評価を行い,F-barES-FEM-T4およびその派生定式化による難問題の解析技術確立を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度(今年度)は主に次の3点について研究を行った. 1)動的陽解法においてF-barES-FEM-T4がエネルギー発散を起こす原因の究明 ――― F-barES-FEM-T4は動的陽解法において長時間計算するとエネルギー発散を起こすことは前年度の時点で既に確認されていたが,その原因が全くの不明であった.今年度,研究代表者らはF-barES-FEM-T4で固有振動数を求めるモード解析を実装し,エネルギー発散の原因が相反定理への違反,すなわち対称性の欠如にあることを明らかにした. 2)塑性変形を伴う静解析におけるF-barES-FEM-T4の精度と安定性の確認 ――― 超弾性体構成式で表されるゴム材料に対するF-barES-FEM-T4の有用性は前年度までに既に検討されていた.ただし,微圧縮性を有する材料はゴム材料だけではなく,弾塑性体構成式で表される金属材料や樹脂材料も該当する.今年度,研究代表者らはF-barES-FEM-T4で弾塑性体を扱う機能を実装し,大変形により大きく流れる弾塑性解析においてもF-barES-FEM-T4が高い精度と安定性を有することを実証した. 3)F-barES-FEM-T4の接触解析における接触反力分布の平滑性の確認 ――― 既存の四面体FEMではロッキングを防ぐために2次要素がしばしば用いられているが,2次要素を用いると接触解析において接触反力分布に振動を生じることが知られている.研究代表者らはF-barES-FEM-T4で接触解析を扱う機能を実装し,微小変形および大変形のいずれにおいてもF-barES-FEM-T4が振動の無い平滑な接触反力分布を与えることを確認した. 以上により,F-barES-FEM-T4は動解析での若干の定式化改良が必要であるものの,弾塑性や接触といった基本的な問題で高い精度を有していることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究として主に次の課題に取り組む予定である. 1)動的陽解法においてエネルギー発散を起こさないF-barES-FEM-T4の改良型定式化の開発 ――― 今年度の研究成果から動的陽解法におけるF-barES-FEM-T4のエネルギー発散の原因は解明されており,その原因を取り除く改良型定式化のアイデアは既に幾つか挙がっている.次年度はそれらを実装し,その中で最良と思われるアイデアの組み合わせを探る.そして動的陽解法でもF-barES-FEM-T4の利点をなるべく損なわずにエネルギー発散を起こさないS-FEM定式化を確立させる. 2)粘性変形を伴う静解析におけるF-barES-FEM-T4の精度と安定性の確認 ――― 超弾性体および弾塑性体に続き,粘弾性体も微圧縮性が現れる材料である.ガラス転移温度付近で加工されたあと常温に冷やされる樹脂材料の変形では微圧縮性から圧縮性へと材料特性が変化する.F-barES-FEM-T4はこの様な粘弾性体に対しても高い精度と安定性が期待されることから,次年度はそれを具体的に実装して確認する. 3)F-barES-FEM-T4のプログラム高速化 ――― 四面体を用いるS-FEMは標準的四面体FEMと比較して計算時間が増大する.計算時間と精度は一般にトレードオフの関係にあるため,精度向上のためにはある程度の時間増は避けられない.ただし,S-FEMはFEMよりもバンド幅が広いため,プログラムの書き方を工夫すればキャッシュのヒット率の向上が期待でき,従って比較的軽微な時間増で大幅な精度向上が達成できる可能性がある.次年度はプログラムの共有メモリ並列(OpenMP)部分をチューニングすることによりプログラム高速化を図る.
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