研究課題/領域番号 |
16K17979
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 直樹 京都大学, 工学研究科, 助教 (90756818)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 繊維強化複合材料 / 超音波 / 非破壊評価 / 高調波発生 |
研究実績の概要 |
複合材料における繊維-樹脂界面の微視的なはく離を検出することにより早期段階での非破壊評価の実現が期待できる.しかし,線形的なパラメータを評価する従来の非破壊評価法では,こうした微視的な損傷の検出は困難であった.そこで本研究では,繊維-樹脂界面のはく離が非線形超音波伝搬挙動に与える影響を明らかにすることで本課題の解決を目指している.平成28年度は以下の2点について検討を行った. 1.の検討では,短冊状の直交積層炭素繊維強化プラスチック板の試験片に対して引張負荷中に超音波を入射し,高調波発生挙動と線形的な減衰特性の変化の両面から検討を行った.引張試験は続けて2回行った.その結果,1回目の試験においては,基本波に対する高調波振幅が顕著な増加を示すが,2回目の試験ではほとんど増加しないことがわかった.非線形パラメータの変化の傾向は損傷の傾向と一致しており,損傷によって基本波に対する高調波振幅が増加するという考察を支持している.一方で,材料の非線形性の評価に影響を与えうる試験片の減衰特性も同時に試験前後で大きく変化している.このため,本実験における基本波に対する高調波振幅の変化が,材料の非線形性の変化によるものであるとは現在のところ断定できない. 2.上記の実験的検討により得られた結果を適切に解釈するため,複合材料中の繊維-母材界面の非線形性に起因する高調波発生挙動を数値的に検討した.本解析では繊維に対して直交方向に縦波および横波が入射される条件を想定した.多数の繊維による多重散乱および界面における非線形性を考慮するため,固有関数展開に基づいた定式化を行った.また,本定式化に基づいた数値解析の結果,円柱-母材界面の結合状態の指標である接触面剛性によって二次高調波の散乱波の指向特性が大きく異なることなど,従来知られていなかった非破壊評価に有用と考えられる現象が確認されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.の検討では,本研究において検討の対象とした繊維-樹脂間の破壊現象だけでなく,トランスバースクラックと呼ばれる巨視的な破壊が生じたために,材料の減衰特性が大きく変化したと考えている.本年度の検討では,材料の非線形性を適切に評価するために,減衰特性が高調波振幅に与える影響を十分に評価する必要が生じた.また,治具の作成,超音波を入射するためのウェッジの形状に試行錯誤を要したため,レーザ加工機を導入することでより効率的に課題を進めた.引張負荷下の直交積層材料中の高調波発生挙動および減衰特性に関する知見が得られた一方で,減衰特性の評価などの追加の検討に必要な試験片が想定よりも多くなったため,用意した試験片では繊維-樹脂間の破壊現象のみを対象とした検討が十分に行うことができていない. 2.の数値的な検討では母材中に1本の繊維が存在する場合における高調波の発生挙動に関して数学的な定式化を提案し,さらに複数の繊維が存在する複合材料中の高調波発生挙動に関しても多重散乱の影響を厳密に考慮した定式化を行った.これらに加え,定式化に基づいた数値解析により,従来知られていなかった非破壊評価に有用と考えられる現象が確認されるなど当初想定されていた以上の知見を得ている. 以上のことから1.の実験的検討では,予期していない現象の対応のために追加の検討が必要になったが,2.の理論的・数値的解析により当初想定されていた以上の知見を得ており,総じて本研究課題の進捗は概ね順調と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
繊維-樹脂界面破壊と非線形伝搬挙動との関係に着目するために,従来の検討よりも小さなひずみを与えた試験片の製作や,材料の変更を行う予定である.平成28年度の実験に比べて破壊の生じている領域が小さくなることから,より微弱な高調波振幅を検出する必要がある.これらの課題は,平成28年度に得られた数値解析の結果を反映し,検討に適した試験片および,試験条件に最適化した周波数フィルタ回路を導入することにより,解決が可能であると考えている.新たな試験片はすでに発注しており,来年度にむけて準備を行っている. 一方,2に示した解析的な検討では,1本あるいは複数本の繊維から発生する高調波の放射分布に関して,定性的な説明を加えることを目指す.これにより,より一般性のある知見を見出し,課題の目標を達成する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
予備調査・検討の結果,材料中の超音波伝搬挙動に関する数値解析的な検討において固有関数展開による多重散乱を扱う手法が有効であることがわかったため,当初予定していたFEMソフトウェアの拡張プロセッサであるDigimatを購入せずに,代わりにハウスコードによる解析を行った.このため,平成28年度の助成金に未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越された平成29年度請求分は,平成28年度に十分に行われなかった繊維-樹脂界面破壊と高調波発生挙動に関する検討を行うために,試験片製作費用および超音波センサ類の拡充に用いる予定である.
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