研究課題/領域番号 |
16K17985
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
松尾 尚 福岡大学, 工学部, 助教 (40736542)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 球状黒鉛鋳鉄 / 水素脆化 / 黒鉛 / 疲労 / 静的破壊 |
研究実績の概要 |
平成29年度中に得られた主な成果は以下の通りである。 1.球状黒鉛鋳鉄の疲労における水素脆化 前年度に、水素チャージした丸棒試験片を用いて、球状黒鉛鋳鉄の疲労き裂進展特性に及ぼす水素の影響について調べた。このときは水素によってき裂進展が加速すること、およびこの加速現象が低周波数ほど顕著になることを明らかにした。29年度中は平均黒鉛寸法の異なる材料で同様の実験を行い、黒鉛寸法の影響を調査したところ、平均黒鉛寸法にかかわらず水素吸蔵量、き裂進展速度ともにほぼ同等の結果となった。このことは過去の静的破壊で得られた結果と一致しない。 2.球状黒鉛鋳鉄の水素吸蔵特性とそのメカニズム 上記1の通り、過去に得られた黒鉛寸法と水素吸蔵量との関係性(黒鉛寸法が大きいほど水素吸蔵量が大きい)と矛盾する結果が得られたため、再度徹底的に黒鉛寸法と水素吸蔵量の関係を調べた。一つの供試材から複数の試験片を取り出し、水素チャージを施した後水素量を測定したところ、同じ供試材から取り出した試験片でも、その水素量には明らかに差があり、比較的大きな黒鉛を含む試験片の方が水素吸蔵量が大きかった。また、極端に水素量が変化する黒鉛寸法の領域が存在し、この領域では試料間のわずかな黒鉛寸法の差で、大きな水素吸蔵量の差が生まれる。このためこのような箇所から取り出した試験片の場合、個々の試験片の黒鉛寸法を詳細に調べ、これを元に水素脆化感受性を評価すべきであり、供試材の代表寸法を元に評価を進めると誤った解釈をしてしまう可能性がある。すなわち上記1の結果は、代表寸法は異なるが比較した個々の試験片の正確な黒鉛寸法はほとんど同等だったため、水素吸蔵量および水素脆化度合いが同等のものとなったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでで、球状黒鉛鋳鉄の水素脆化感受性と組織因子との関係について、黒鉛寸法、黒鉛率、基地組織のそれぞれの観点から調査を行い、一定の傾向を見つけ出すことができた。しかし、特に黒鉛寸法に関しては、この傾向に矛盾する結果が時折得られたため、明確な結論を出すことが困難であった。29年度の成果で、水素吸蔵量が極端に変化するような黒鉛寸法の領域が存在することを明らかにし、この領域の黒鉛寸法を持つ試験片の場合、代表寸法ではなく個々の試験片に含まれる黒鉛の寸法を正確に評価し、これを元に水素脆化感受性を議論すべきことを明らかにした。このような観点から、これまでの引張試験の実験結果を見直すとともに、疲労特性を調査することで、黒鉛寸法と水素脆化感受性の関係を正確に理解できると考えられる。 また、水素チャージした球状黒鉛鋳鉄の低周波数の疲労試験については、0.5Hzまでは実施できているが、肝心の0.01Hzや0.001Hzといった超低周波数の実験は、実験自体にとても長い時間を要するとともに、試験機の稼働状況の都合もあり、29年度中に実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上述した通り、水素吸蔵量が極端に変化するような黒鉛寸法の領域が存在することが明らかとなったため、この観点から研究をさらに進める。30年中は以下のようなことを実施する予定である。 ・試験片中の黒鉛の寸法分布を詳細に調べ、黒鉛寸法ヒストグラムと水素吸蔵量の関係を整理し、平均的な黒鉛寸法に依存しているのか、それともある寸法より大きな黒鉛だけが水素吸蔵に寄与しているのか、といったようなことを明らかにする。また、小黒鉛の中に大黒鉛が点在するような材料に対しても実験を行い、平均的な黒鉛寸法と寸法の分布のどちらが水素吸蔵特性に対して支配因子なのかを明らかにする。 ・上記と同様に、黒鉛寸法と水素脆化感受性の関係を再度詳細に調査する。 ・上記のことは主に引張試験によって調査するが、その結果が疲労特性においても適用できるかどうか明らかにする。29年中の実験では、おそらく黒鉛寸法があまり変わらない試験片で比較してしまったため、明確な結論が得られなかったが、今年度は、黒鉛寸法にはっきりとした差があるいくつかの試験片で評価を試みる。 本研究の最終目標である、球状黒鉛鋳鉄の黒鉛を水素供給源として利用した低周波数におけるき裂進展挙動の解明のために、水素チャージした球状黒鉛鋳鉄を用いて0.01Hzや0.001Hzといった超低周波数で疲労試験を行う。その後、き裂周辺や疲労破面の電子顕微鏡観察を通して、水素存在下の低周波数におけるき裂進展挙動を明らかにする。
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