ハイドロキシアパタイト(HAp)粒子を用いたショットピーニング,HApプラズマ溶射,HAp粒子を用いたショットピーニング後にHAp溶射を施した生体適合チタン合金(Ti-6Al-4V ELI)に対して軸荷重疲労試験を実施した.その結果,各処理材とも未処理材と疲労強度と比較すると大きな差異は認められなかった.従来,溶射を施すことで疲労強度が低下することが報告されてきたが,本研究では疲労強度が低下することがほとんどなかった.破面を観察すると,応力振幅500 MPa以下にて疲労試験を実施した試験片全ての破面上に内部き裂の発生を示すFish-eyeが確認されため表面処理の疲労強度に及ぼす影響は少ないと考えられる.また,内部き裂の起点となる欠陥の大きさが試験片により様々であり,定性的にみると疲労寿命が短かった試験片,すなわち疲労試験開始後すぐに破断した試験片の内部き裂が大きい傾向があった.そこで,内部き裂発生起点の大きさが疲労寿命に影響を及ぼしていると考え,内部き裂の大きさと疲労寿命の関係を明らかにするため内部き裂起点部の大きさおよび試験応力から応力拡大係数範囲を計算した.その結果,応力拡大係数範囲の値が小さくなると疲労寿命が増加する傾向が得られた.したがって,本研究で使用したチタン合金(Ti-6Al-4V ELI)の軸荷重疲労特性は材料表面の状態より材料内部に存在する欠陥に大きく影響されることが分かった. アコースティックエミッション(AE)法を用いて溶射皮膜のはく離挙動と疲労寿命の関係を明らかにすることも当初の計画に含んでいたが,今後の検討課題とし,溶射材の疲労特性の更なる解明に繋げていく予定である.
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