前年度研究では,材料内部に形成した加工痕の形状制御に取り組み,加工条件を最適化し,加工痕を微小化することにより,へき開面に沿った大きなき裂を抑制し,加工断面の均一化に成功した.これにより,再現性の高い剥離が可能となった.本年度は,シリコンウエハ以外の他材料への適用を試み,次世代パワー半導体として注目されているSiCにレーザスライシングを適用した. SiCの光学的特性として,Siと比較して波長1064nmのレーザに対して透過率が低いという特徴がある.そのため,材料内部にレーザを集光した際に,集光点に達する前に吸収が発生し,加工痕が安定して形成されないことがわかった.そこで,ピークパワーの高いピコ秒レーザを使用することにより安定した加工痕の形成が可能になった. SiCの加工痕形状の特徴として,Siの縦長のき裂とは異なり,三角形状の変質層の形成およびそこから水平に伸びるき裂が特徴となる.これは,SiCがアモルファスSiとアモルファスCに解離し体積膨張を起こし,その残留応力によりSiCのへき開面であるSi面,C面に沿ってへき開が伸展することに起因することがわかった.そのため,Siではき裂を細かく形成し,直接き裂同士を連結することによりスライシングを実現するのではなく,へき開面同士を連結させることによりスライシングが実現できると考えられる.そこで,加工ライン同士の間隔を調整し,へき開を連結させることにより,剥離に成功した.剥離応力はSiと比較して半分以下となり,容易に剥離可能であることが明らかになった. しかし,加工面には周期的な凹凸模様が形成され,オフ角に沿って4deg傾いた面が連続的に形成された.今後は,へき開面の制御に取り組む必要がある.
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