研究課題/領域番号 |
16K18002
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
鎗光 清道 首都大学東京, システムデザイン研究科, 助教 (90723205)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PVAハイドロゲル / 予荷重 / 透水性 / 二相性潤滑 / 水和潤滑 / 人工軟骨 |
研究実績の概要 |
本研究では,PVA(poly(vinyl alcohol)ハイドロゲルの二相性潤滑特性の解明のため,予荷重付与によるPVAハイドロゲルおよび関節軟骨内部の水分流出が摩擦・摩耗挙動に与える影響を調査した.その結果,PVA凍結解凍ゲル,PVAキャストドライゲル,関節軟骨は予荷重時間の増加とともに摩擦が増大し,摩耗も顕著に発生した.しかし,PVAハイブリッドゲルは予荷重付与による摩擦の増大は僅少であり,摩耗も軽微であった.そのため,PVAハイブリッドゲルは,1)内部の透水率が小さく,荷重による内部流体の流出が起こりにくい,2)予荷重が増加した状況においても低摩擦・低摩耗を維持可能な特異的表面構造を有する,ということが推察された. そこで,透水性試験を行い,PVAハイドロゲルおよび関節軟骨の透水率を実測したところ,PVAハイブリッドゲルの透水率はPVA凍結解凍ゲルよりは2桁程度低いものの,PVAキャストドライゲルよりは高く,関節軟骨と同程度であった.このことから,PVAハイブリッドゲルが予荷重時間が増加した場合にも低摩擦を維持可能なのは,透水率が低いことで内部流体が流出しにくく,二相性潤滑機構が維持されやすいのではなく,せん断抵抗が低くかつ耐摩耗性に優れる特異的表面構造を有することに起因するものと考えられた. PVAハイブリッドゲル表面を意図的に摩耗させた場合,ゲル状表面構造がクレーター上の構造が露出することがわかった.これは表面に親水性高分子による水和層を有する関節軟骨と類似しており,PVAハイブリッドゲル表面には親水性PVA分子鎖による水和層が形成され,関節軟骨と同様の水和潤滑機構が機能していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定している実験はおおむね順調に進行している.PVAハイブリッドゲルが,予荷重が付与され二相性潤滑,水和潤滑機構の発現に不利である状況においても低摩擦かつ低摩耗を維持しており,従来のPVA凍結解凍ゲル,PVAキャストドライゲルよりも人工軟骨候補材料としての有用性が示された.また,PVAハイブリッドゲルの低摩擦・低摩耗性が二相性潤滑機構のみでなく,表面ゲル水和層によるものが大きい可能性が摩擦試験および透水率の実測により示されたことは大きな進展であり,さらなる低摩擦・低摩耗化を目指した材質改善の指針策定に有用な知見となる. しかし,原子間力顕微鏡を用いた特異的表面構造の同定については,原子間力顕微鏡のプローブとPVAハイブリッドゲル表面の相互作用力が大きく走査が困難なため,代替手法を検討中である.PVAハイブリッドゲル表面に特徴的な表面ゲル水和層が存在することを示唆する研究結果は得られているため,原子間力顕微鏡ではなく分光分析等の表面分析手法を用いたアプローチによりその詳細構造の同定を検討しており,研究目標は当初の計画に沿い一貫している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,PVAハイブリッドゲルの潤滑性に寄与していると考えられる表面構造を形態観察のみでなくラマン分光もしくは赤外分光法等の化学分析も合わせて追及する予定である. また,圧縮力学試験によって応力緩和挙動やゲル内部の流体による荷重支持能についても調査を行う.そして,初年度に得られた摩擦・摩耗試験や透水率に関する知見と合わせ,摩擦・摩耗特性,荷重支持特性に優れたPVAハイブリッドゲルの開発指針を提案し,改良型PVAハイブリッドゲルの試作を行う.なお,現在のPVAハイブリッドゲルは凍結解凍法およびキャストドライ法によって製作されているが,これは水素結合を用いた物理架橋ゲルである.しかし,今後のゲルの改質にあたっては,従来の物理架橋によるゲル化に限定せず,必要に応じて化学架橋によるゲル化や追加架橋を検討し,低摩擦・低摩耗,荷重支持能に優れたゲルの作製を目指す. 改良型PVAハイブリッドゲルの評価については,単純化した摩擦試験条件下にて基礎的摩擦・摩耗特性を理解した後,生体模擬環境下ので評価を行い,材質改善の有用性を調査する.
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