本研究は,摩擦界面で実際に何が起こっているかを可視化(in situ観察:その場観察)し,同時にアコースティックエミッション(AE:材料の変形・破壊時に生じる弾性応力波)信号を計測することで,複雑なブレーキ摩擦材料のトライボロジー現象を解明し,その特性を定量的に評価する技術を確立させることを目的としている.人為的に特性の違いを持たせたブレーキパッド単純配合材(実用されているパッド材料から主成分のみを残したシンプルな材料)を用いて摩擦実験を実施し,各トライボロジー特性で発現するAE信号波形の特徴(振幅値や周波数スペクトルなど)を明らかにし,ブレーキ摩擦材料の摩擦特性(摩擦係数への温度や水の影響など)や摩耗特性(表面粗さや摩耗量など)との定量的な対応関係を見いだす. 平成30年度は,昨年度に引き続き,摩擦条件変化の影響を調査するとともに,実機を想定した長摩擦距離での高速in situ観察・AE計測実験を遂行した.特に高温環境下での実験に着手し,摩擦面の温度変化によって摩擦係数の大きさに差異が現れにくい場合でも,摩耗の進行に伴う差異をAE計測によって認識できることがわかった.摩擦条件変化の違いによる影響の再現性を確認し,異なる配合のブレーキパッド材種の摩擦・摩耗特性をAE計測によって評価できる可能を提示できた.また,摩擦界面の潤滑状態によって,鋳鉄内部の黒鉛粒子や摩耗粒子の挙動が変化し,摩擦・摩耗特性を大きく変化させることを明らかにした.これらの知見を活用することによって,将来的にトライボロジー特性に対する最適な配合比が見いだせると考える.さらに,最終年度の総括として,得られたin situ観察映像とAE信号の関係を整理し,AE信号-トライボロジー特性マップを構築することができた.
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