研究実績の概要 |
高濃度・気泡流音響学の創成に向けて,初年度は,さまざまな初期ボイド率の条件下において,音速の計測値を網羅的に整備した。 この実験的知見を基に,本年度は,主として理論的手法による研究を遂行した。高濃度の条件下において判明したさまざまな実験事実を数学モデル化すべく,気泡流のモデル方程式系に対して,多重尺度法とパラメータスケーリング法に基づく漸近解析を3次まで実行した。その結果,2種類の非線形波動方程式の導出に成功した。1つはKorteweg-de Vries-Burgers (KdVB) 型,もう1つは非線形Schroedinger方程式 (NLS) 型であるが,代表者らの先行研究 [Kanagawa, J. Acoust., Soc., Am., Vol. 137, pp. 2642-2656 (2015); Kanagawa, Yano, Watanabe & Fujikawa, J. Fluid Sci. Technol., Vol. 5, pp. 351-369 (2010)] で導かれた類似の方程式群とは,係数はもちろんのこと,本質的に異なる補正項が加わる結果が得られた。とくに,高次の非線形効果が現れたこと,長波近似が通用しないほどに短い波長が要請されること,遠方場において群速度が低下することなどは重要な事実である。 現在,当該非線形波動方程式群の有限差分法による数値解析の準備を進めている。最終年度に,数値解を計測値と比較することで,定量的知見を見出す予定である。それによって,高濃度・気泡流音響学なる新たな学術分野を切り拓くことが可能となる。
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