2016年度は主として実験的手法から,2017年度は主として理論的手法からの研究を行ったが,両結果の間には不一致が存在した。そこで,最終年度2018年度の目的は,実験事実と理論解析結果の比較をとおして,研究の総括を行うことにある。その結果の中でも,2017年度に構築した理論を発展させて,「散逸性の影響」と「流れと波の相互作用」の考慮に成功したことは特筆すべき進展である。得られた成果は以下のとおり要約される: 1.気泡の崩壊によって,気泡流中に衝撃波が形成され(2016年度に観測済),これが音速にも重要な役割を果たすと考えた。これを理論的に裏付けるべく,バルクの粘性と熱伝導性を考慮に入れ,2017年度の理論解析結果をより一般化させ,衝撃波とその散逸効果の数学モデリングに成功した。その結果,波の伝播に伴う音速の減少が判明した。 2.2016年度の実験は高速気泡流を対象にしていたが,2017年度の理論解析は流速の影響を考慮することができなかった。この不一致を解消すべく,流速を考慮した理論構築に成功し,流れと波の相互作用が明らかとなった。 3.上記1と2を踏まえた理論解析と数値解析を行い,得られた圧力波形が,実験的に観測された波形と概ね一致した。さらに,音速の計測値のうちのいくつかが,理論予測結果と概ね一致した。
以上のとおり,実験事実の多くが,理論解析の結果と整合し,理論的裏付けがとれた。ただし,理論解析が当初計画以上に進展したことから,理論予測結果のいくつかは,未だ実験的に実証されていない状況にある。したがって,実験的研究をさらに推し進める必要があるが,上記のように,あくまでも理論と実験の相補の観点から,厳密な理論構築および精密な計測実験を遂行すれば,「高濃度・気泡流音響学」の完全なる創成までの道のりは険しくはないだろう。
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