本年度は,平均場格子気体モデルの精度向上を目的とし,Grand canonical Monte Carlo (GCMC) 計算の結果を参照データとして,格子気体モデルの相互作用項の検討を行った.具体的には,グラファイト表面におけるアルゴン吸着のGCMC結果を再現するように,格子気体モデルで扱う相互作用格子数及び固体-流体間相互作用の精緻化を行った.その結果,相互作用関数形としてLennard-Jones型を用い,カットオフを適切に設定することで,GCMCの吸着等温線を定量的に再現できることを示した.従来の隣接サイト間でのみ相互作用を考慮する格子気体モデルとは異なり,相互作用項をより一般的に表現することで,モデルの拡張性を大幅に高めることに成功した. また,技術研究組合FC-Cubicと共同で,集束イオンビーム-走査電子顕微鏡を用いて,固体高分子形燃料電池の触媒層の実断面画像を取得し,一辺約5 umの大規模実構造データを再構築した.格子幅をボクセルサイズ(一辺6 nm)に合わせ,格子気体モデルによる吸着・脱離過程の解析を行った.その結果,昨年度扱ったマイクロポーラス層よりも小さな細孔径分布を有する触媒層の内部では,毛管凝縮による細孔の閉塞がより顕著に見られた.さらに,毛管凝縮が気体輸送特性に及ぼす影響を系統的に調べるために,球のランダム充填から成る多孔質構造を数値的に作成し,格子気体モデルによる吸着・脱離解析及びモンテカルロ法による気体輸送解析を行った.毛管凝縮により細孔が一部閉塞した多孔質構造のコード長分布,代表長さ,屈曲度等の構造特性を系統的に調べ,気体拡散性の低下との関係を明らかにした. 本課題の研究期間全体を通じて,分子シミュレーションを用いたミクロスコピックな解析と,平均場格子気体モデル及びモンテカルロ法を用いたメソスコピックな解析を連結するための方法を提示した.
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