台風など熱帯低気圧下における高風速時の風波気液界面を通した運動量輸送機構を明らかにし,信頼性の高い輸送モデルを構築することは,台風の強度を正確に見積もるうえで極めて重要である.既往研究では,台風下のような高風速時の海面近傍の流動場は,液滴の飛散や気泡の巻き込みなどの激しい砕波を伴う複雑な気液二相乱流場を呈し,本砕波現象が海面を通しての運動量輸送量を抑制する可能性が示唆されている.しかし,その砕波機構は構造の複雑さゆえに全く解明されていない.そこで本研究では,室内実験手法および直接数値計算法を使用して,高風速時の激しい砕波機構の解明および砕波を伴う気液界面を通しての運動量輸送機構を解明し,新たな運動量輸送モデルを構築することを目的とする.本年度は,九州大学の大型風波水槽を使用して,長吹送距離における風波の作成を可能とするループ法に関する追加実験を行った.追加実験では,ピトー管,差圧計,抵抗式波高計などを使用して,気流速分布および波高測定を行い,砕波を特徴付けるいくつかの特性量の測定を行った.これらの気流・波高データを,昨年度までに京都大学で取得した高風速時の気流・波高・砕波の特性量データと比較し,その検証結果を論文にまとめてアメリカ気象学会の国際誌において出版した.また,近畿大学の小型風波水槽および新規購入したPIV用のタイミングハブを使用して,境界層外乱流が風波の発達に及ぼす影響を検証し,本影響は無視できるほど小さいことを明らかにした.さらに,Level-set/VOF法を使用した直接数値計算コードの適用可能性の検証を行った.その結果,風波気液界面からの微粒化現象を再現可能であることを確認した.これらの研究成果を,千葉県およびイギリス・ロンドンで開催された2つの国際会議において報告を行った.
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