研究課題/領域番号 |
16K18022
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
福江 高志 岩手大学, 理工学部, 助教 (80647058)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 脈動流 / 伝熱促進 / ファン空冷 / 水冷デバイス / 物体周りの伝熱 / 脈動波形 / 電子機器の冷却 / 熱設計 |
研究実績の概要 |
電子機器のファン空冷を想定し,cmスケールの矩形筐体内に設置した発熱体を,脈動させた空気で冷却した場合の伝熱促進効果について実験し,伝熱促進に向けた脈動波形の制御指針を探索した.実験は研究室所有の風洞で行った.ピストン・カム機構を用いて風洞を流れる空気を脈動させた.流路は19インチラックに搭載する1Uサイズの機器を想定し,断面の寸法は80mm×40mmとした.幅方向の中心に発熱体を設置した.発熱体は電子部品やピンフィンなどの伝熱促進体を想定し,断面が一辺30mmの正方形の角柱とし,表面にステンレスヒータを貼り付け一様熱流束条件で加熱させた.空気の脈動周波数は1Hzまたは2Hzとし,カムの形状を変更することで脈動波形を変更した.脈動時の最大流量に基づくReynolds数を定義し,実験時のReynolds数は1500とした.伝熱促進に対する脈動の有効性の確認は,脈動時の最大流量で固定した定常流の結果との比較により行った. 流量の脈動波形を変化させ,正弦波状の緩やかな波形と,より急峻な変化をもたせた波形を比較した場合,後者は前者に比べ更に10%程度高い流量低減効果が得られた.脈動時の最大風量で固定した定常流の72%の時間平均流量で,脈動流は同等の伝熱性能を得た. また,周波数を1Hzから2Hzに変更した場合,条件により多少伝熱が向上したが,大きな違いはなかった.実用の観点からは,脈動の減速期間で流れが必要以上に発熱体周りに停滞し伝熱を抑制しない程度の脈動周波数でよい感触を得た. また,次年度に向けた先行調査として,研究室所有の数値解析技術を用いて,mmスケールの矩形流路に脈動水流を流した場合の伝熱促進効果を調査した.断面が5mm×5mmの流路に,伝熱促進のためのリブを設け流れを脈動させた場合,cmスケールの空気流と同様の伝熱促進効果が得られる可能性を明らかにできた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
cmスケールのファン空冷を対象とした場合について,脈動流による伝熱促進効果を,脈動波形を変えながら実験的に検証することができた.カムの形状を変更することにより,実験で脈動波形を制御する技術の構築に成功した.脈動波形を変更しながら比較を進め,脈動流による発熱体まわりの伝熱促進効果を最適化するための脈動波形の設計指針を獲得できた.これは脈動流の実機応用に向けて重要な基礎情報となる.また,並行して,次年度計画しているmmスケールデバイスにおける脈動流の伝熱促進に関する研究に向けて,数値解析による先行調査を進められた.次年度の計画の詳細を詰めるために必要な情報を入手できた. 一方で,冷却システム全体としての効率を検討するために必要な物体周りの圧力損失の評価については,数値解析による評価は問題なく実現できた.しかし実験については,計測は行えているものの,流路内の静圧の分布や,計測系の時間応答に対する信頼性の評価が遅れており,信頼性の改善が必要となった.しかし平成28年度のうちに,計測点の増加,計測装置の変更による計測系の改善に向けた準備を完了し,実験においても圧力損失の評価を行えるよう準備できた. 以上の進捗状況から,研究目的の達成度について「おおむね順調に進展している」と評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度のcmスケールの実験結果,およびmmスケールの先行解析結果を踏まえ,脈動流による伝熱促進が,冷却対象の寸法や作動流体に依らず実現できるように,スケール効果の検証を進める.特に,mmスケールの管路における検証を進める.作動流体を空気と水の両方にする.空気の実験は平成28年度と同じ風洞により,筐体や冷却部品の寸法をより小さくした場合の伝熱性能を検証する.一方,mmスケールの管路内で水による脈動流の実験ができるように,脈動水流の実験装置を新規に設計製作する.作動流体を変えた場合に,脈動流の伝熱促進効果の変化が起こるか,実験での評価を進める.なお,mmスケールにおいては,実験による流れの可視化が難しくなるため,数値解析を並行して実施し,脈動流により発生する伝熱促進のメカニズムを探る.検証を通じ,脈動流による冷却促進効果を,スケールを問わずに応用するための流量制御指針を得る計画である.
|