研究課題/領域番号 |
16K18023
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
田中 光太郎 茨城大学, 工学部, 准教授 (10455470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオ燃料 / 量子カスケードレーザー / 吸収分光法 / 自着火 / 燃料濃度計測 / ガソリン |
研究実績の概要 |
本研究では、中赤外分光法を応用した瞬時燃料性状把握手法を確立し、化学反応モデルを用いて先進内燃機関の燃焼制御として重要な因子の一つである予混合気の着火特性を予測する手法の開発を行うことを目的とする。2年の研究期間の中で、初年度は燃料に含まれるアルカン、アルケン、シクロアルカン、芳香族、含酸素炭化水素の代表成分を用いて、中赤外域における吸収スペクトルを取得する。2年度目は、含酸素成分であるバイオ燃料を対象として、量子カスケードレーザーを光源とした中赤外分光法を応用し、燃料濃度の定量計測手法を開発する。そして、化学反応モデル計算による着火予測を実施し、燃料の着火特性を予想する手法を構築する。 初年度は、計画通り、ガソリンを対象として、ガソリンに含まれる代表成分の中赤外域における吸収スペクトルをフーリエ変換赤外吸収分光計を用いて計測した。また、現在バイオ燃料として注目されているエタノール、エチルターシャリーブチルエーテル、フラン類の吸収スペクトルも計測した。これらのスペクトルから、既存化石燃料に含有されているバイオ燃料濃度を計測できる吸収線の選択を行い、既存燃料中のバイオ燃料濃度を簡易に計測できる波長を示した。 これらの成果により、既存燃料に混合されているバイオ燃料濃度の計測を簡便に実施することが可能となる。バイオ燃料濃度は、国や地域で異なることから、それらの燃料にも対応できるエンジン燃焼制御が必要であり、その制御のインプットとして、燃料成分濃度がわかることは重要であり、今後小型化ができれば、燃料センサーとして応用していくことも可能である。 今後は、小型量子カスケードレーザーを準備し、燃料センサーに向けた小型装置の開発を継続するとともに、バイオ燃料を含む燃料の着火特性を予測するため、バイオ燃料成分を含む燃料の自着火実験および化学反応モデルの構築を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自動車用の燃料性状を把握するため、中赤外吸収分光法を応用した計測手法を開発することを目的に、平成28年度は、中赤外領域における燃料の吸収スペクトルを計測し、計測用の最適波長を決定した。特に、本研究では、既往燃料に含有するバイオ燃料濃度を計測することに特化した。実ガソリン、ガソリンの代表成分としてイソオクタン、ノルマルヘプタン、ジイソブチレン、メチルシクロヘキサン、トルエン、バイオ燃料として、エタノール、エチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、フラン類の中赤外領域の吸収スペクトルを計測した。一部は既往のスペクトルも存在し、それらとよく一致することを確認した。さらに、得られた吸収スペクトルから吸収断面積を決定した。 エタノール、ETBE、フラン、2メチルフラン、2.5-ジメチルフランの吸収スペクトルとガソリンの代表成分5種、実ガソリンのスペクトルを比較し、バイオ燃料成分を計測可能な最適吸収波長を決定した。現在、世界及び日本で混合されているエタノール及びETBEの最適波長を選定し、概ねエタノールは1090cm-1、ETBEは1116cm-1で計測できることを確認した。 決定した波長により、定量的に濃度計測ができることを確認するため、選択した波長の濃度依存性を確認した。その結果、濃度の変化とスペクトルの吸収強度は1次に比例し、濃度計測が可能であることを確かめた。 そこで、実際に市販のガソリンを用いて、実ガソリンに含まれるバイオ燃料の濃度を計測した。日本では、市販ガソリンにはETBEが含まれていることから、ETBEの計測を行った。その結果、市販ガソリンに含まれているETBEの濃度は約5.7%と得られ、市販ガソリン中のバイオ燃料濃度を計測できるようになった。 研究成果は当初の計画通りであり、順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目にバイオ燃料濃度計測に最適な中赤外領域の波長を決定することができたことから、今年度は、その波長を発振可能な小型量子カスケードレーザーを用いて、バイオ燃料濃度計測が可能な装置を構築する。ガソリンに混合されるエチルターシャリーブチルエーテルおよびエタノールを対象として、光源を準備し、装置構築を実施する。実際に市販の燃料を用いて、それに含まれるバイオ燃料濃度を計測し、既往の成分分析装置と比較することにより、中赤外光源を用いた新たな燃料濃度計測手法の信頼性を確認する。 燃料濃度がわかれば、着火時期を予測することが、化学反応計算により可能になる。しかし、バイオ燃料と既存燃料を混合した燃料の自着火特性を予測するモデルは少なく、また、着火特性を検証する着火遅れ時間などの基礎燃焼データが少ない。そこで、既往の研究で十分ではない、バイオ燃料を混合した場合の自着火特性に関して、急速圧縮装置を用いた実験によりデータを積み重ねていく。それらのデータを用いて、着火予測可能な化学反応モデルの検証および改良を実施する。特に、エタノール、エチルターシャリーブチルエーテルを混合した場合の着火遅れ時間を計測し、モデルの検証、改良を行う。 燃料濃度予測および着火特性を予測するモデルを組み合わせ、瞬時燃料濃度計測による燃料の着火特性予測手法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、既存のフーリエ変換赤外吸収分光計を用いて、炭化水素燃料の基礎分光特性を取得し、燃料に含まれるバイオ燃料濃度を定量計測できる波長の決定を行うことが、主な目的であった。2年度目は、初年度の知見を活かし、バイオ燃料を計測できる小型量子カスケードレーザーを用意し、コンパクトな燃料濃度計測装置を構築し、その計測結果から燃料の着火特性の予測法を検討することが目的である。当初は初年度末にバイオ燃料計測用レーザーを購入することを想定していたが、精緻に計測波長を選択したことから、レーザーの購入が2年度目4月上旬になったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2年度目にレーザー購入に使用するため、1年度目からは遅れたが、当初計画通り使用する。2年度目の予算に関しても、当初計画通り、実験の消耗品等に使用予定であり、問題なく使用できる見込みである。初年度予算のレーザー購入費用は、2年度目に使用することになったが、研究に大きな遅れはなく、問題ない。
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